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Part 1 正しい知識と症状 [印刷用 タイトルあり] [タイトルなし]

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書籍名 アルツハイマーガイドブック
見出し Part 1 正しい知識と症状

内容

  1. Part 1 正しい知識と症状
    1. 1. アルツハイマー病
    2. 3. 認知症
    3. 4. うつ
    4. 5. 妄想
    5. 6. 動揺
    6. 7. 徘徊
    7. 8. 攻撃的な態度
    8. 9. 悪態
    9. 10. 執着
    10. 11. 失禁
    11. 12. うろうろ歩き
    12. 14. 溜めこむ
    13. 15. 服を脱ぐ癖
    14. 16. 習慣へのこだわり
    15. 17. 家に帰りたがる
    16. 18. 痛み

Part 1 正しい知識と症状

アルツハイマー病とはこんな病気です

1. アルツハイマー病

アルツハイマーという名称は、一九〇六年にこの病気を発見したドイツの神経病理学者、アロイス・アルツハイマーにちなんでつけられました。地元の精神病院で診療した患者のひとりが、五五歳で亡くなる一〇年ほど前から、極度の認知症を示していました。その患者の脳を解剖してみると、斑点が広がり、神経細胞がもつれていたので、アルツハイマーはこれが患者の認知症の原因であると考えたのです。アルツハイマー病は、脳の神経塊が独特な状態に変質する病気です。神経塊が石灰化してもつれるせいで、脳細胞の多くが死んでしまうのです。

アメリカには四五〇万から六〇〇万人のアルツハイマー患者がいます。高齢化が進むことを考えれば、今後、患者数は激増するでしょう。アルツハイマー協会によると、六五歳以上のおよそ一〇パーセント、八五歳以上のおよそ半分が、アルツハイマー病と診断されています。

診断されてからの平均余命は八年です。この二〇年間に研究がめざましく進みましたが、いまなお、解明点よりも疑問点のほうが多いのが現状です。市販薬のいくつかは、一部の患者の症状を和らげたり、進行を遅らせたりします。ワクチンの研究にも有望な成果が見られますが、人体に用いられるようになるにはまだ時間がかかるでしょう。


原因 アルツハイマー病に結びつく要因が、いくつか解明されています。遺伝的な要素や生化学的な変化もありますし、たとえば過去の外傷、アルコールの乱用、毒物といった環境要因もあります。けれども根本的な原因については、存在するのかどうかも含めて、いまだ不明のままです。


〈心臓発作との関わり〉 研究の結果、心臓疾患や、高血圧、卒中を起こした経験、高コレステロール血症のある人は、アルツハイマー病にかかる危険性が著しく高いことがわかっています。一過性脳虚血発作、つまり軽い脳血は、脳の血管を傷つけて、しばしば多発梗塞性の認知症を引き起こします。この病気はアルツハイマーに似た症状を示し、やがて本物のアルツハイマーに移行することもあります。


〈遺伝子との関わり〉 三本の染色体(染色体番号一、一四、二一)の遺伝子変異が、三〇代から五〇代の早期発症型アルツハイマーの原因であることがわかっています。しかし、これら三本の染色体の変異をすべて合わせても、アルツハイマーの原因に占める割合はごくわずかです(およそ五パーセント)。四番めの遺伝子、すなわち一九番染色体のアポリポたんぱくE(APOE)が、研究対象となったアルツハイマー患者の六五パーセントに見つかっています。この遺伝子は血液のコレステロール運搬を促すもので、いくつかの型があります。アルツハイマー病の発症を防ぐと思われる型もあるいっぽうで、APOE4という型は、どうやら発症率を高めるようです。

けれども、注意していただきたいのは、APOE4型を持っていても発症しない人が大勢いることです。現時点では、なぜ発症する人としない人がいるのか、理由はわかっていません。たとえ親が遺伝的要因によってアルツハイマー病を発症したとしても、あなたが必ず発症するとはかぎりません。


〈たんぱく質との関わり〉 ベータアミロイドたんぱくは、脳内に自然に蓄積されます。このたんぱく質は細胞にはいりこむと分解します。ところが、きちんと分解されない場合、沈着して細胞を破壊し、脳神経の損傷を引き起こします。認知症の度合いが高ければ高いほど、このたんぱく質の量も多くなります。またタウと呼ばれるたんぱく質も、アルツハイマー患者のもつれた神経によく見られます。こうした発見は、精密な検査法やワクチン、発症後の対策を探るうえできわめて重要です。

多くの研究から、アルツハイマー患者の脳に、このベータアミロイドたんぱくとタウたんぱくが大量に蓄積されていることがわかっています。


〈葉酸やコリンの欠乏との関わり〉 ビタミンB群のひとつである葉酸の欠乏と、アルツハイマー病とのあいだには、相関性があります。ビタミンB12の不足も、異なる型の認知症を引き起こします。残念ながら、ひとたびアルツハイマーを発症したら、状態を改善させることはできません。葉酸は豆類、サケ、マグロ、柑橘類、根菜に含まれています(ただし、調理によって壊れます)。ビタミンB12は、動物性食品にしか含まれず、牛乳、卵、ほとんどの肉類、とくにレバーに多く含まれます。

もうひとつのB群ビタミン、コリンも、脳などの器官の神経伝達機能の健康に欠かせません。アルツハイマー患者の多くに深刻なコリン欠乏症が見られた、という研究結果があります。コリンが欠乏すると神経系と脳の機能が弱まり、消化機能や血圧も悪化します。コリンは肉類、卵黄、大豆などの豆類、全粒穀物に含まれます。


〈アルミニウムとの関わり〉 アルミは埋蔵量が最も多い鉱物のひとつで、わたしたちは食事や水を通じて、一日平均三〇~五〇ミリグラムを摂取しています。アルツハイマー患者の脳を解剖すると、通常の四倍もの濃度のアルミが検出されます。この事実の受け止めかたは、科学者や研究者によってまちまちです。いずれにせよ、用心するに越したことはないので、アルミを過度に摂るのは避けましょう。たとえば飲料水を調べる、酸味の強い食物をアルミ容器で保存したり調理したりするのを避ける、といった簡単な対策でできます。


〈環境毒〉 除草剤や殺虫剤の使用と、アルツハイマーの発症とのあいだには、なんらかの相関性があると思われます。家庭用洗剤に過度にさらされていた人は発症率が高いという、事例証拠もあります。環境やライフスタイルによる要因は、遺伝子と同等か、それ以上の役割を果たしているかもしれません。栄養の摂取状況や頭部の外傷もそうした環境要因のひとつですし、除草剤、殺虫剤、汚染大気等から家庭用洗剤や化粧品にいたるまで、さまざまな汚染物質にさらされることも、環境要因に含まれます。

これらの汚染物質は、体内のフリーラジカル(訳注 不安定な酸素分子のことで、健康な細胞膜と細胞組織に害を与え、がん、心臓病、アルツハイマー病など、さまざまな体調不全に関与している。パート5の「ビタミン」の項を参照)を増加させて、酸化を引き起こし、ひいては健康な細胞の成長を妨げます。


検査 認知症の症状が見られる人は、徹底的な身体検査を受けてください。血液検査を行なって、葉酸、ビタミンB12、甲状腺ホルモンの欠乏がないか、あるとすればどの程度かを調べる必要もあります。認知症の症状が回復可能な要因によるものではないと確認されたら、今度は、神経科医または臨床心理士の診察を受けましょう。その場合、言語記憶検査と、おそらくはMRIまたはCTスキャンを実施することになります。

現在、皮膚または尿による簡単な検査の研究が進められていて、まもなく一般の医療現場で用いられるはずです。


ワクチン アルツハイマー病のワクチンの開発について、慎重ながらも明るい見通しがあります。目下研究中の薬を用いれば、免疫系が、脳の異常と深い関わりのあるアミロイド斑の存在に〝気づき〟、攻撃するようになると考えられています。臨床試験でも有望な結果が得られましたが、数名の被験者に副作用が見られたため、最初の試験は中止されました。その後の試験では、ワクチンがたしかに病気の進行を遅らせることがわかりました。これらの物質がワクチンとして安全で効果的かどうかを確認するには、さらに臨床試験を行なう必要があります。

開発中のべつのワクチンについても、やはり慎重ながらも明るい見通しがあります。高齢の実験動物で、脳の斑点の形成を防ぐ物質が確認されたのです。すでに存在する斑点を消す作用も見られました。現在、臨床試験のさなかで、いまのところ、被験者に深刻な副作用は生じていません。これらの物質がワクチンとして効果があるかどうか確認できるまで、まだ数年かかるでしょう。

アルツハイマー医療の関係者は、ほかの疾患(たとえば糖尿病)の有望なワクチンが実験動物では有望な結果が出たものの、人間には効果がなかったことから、慎重な姿勢をとっています。

3. 認知症

〝認知症〟とは、記憶の喪失および混乱が見られる症状一般を指します。アルツハイマー病のほかにも、認知症を引き起こす要因はたくさんあります。その多くは治療が可能なもので、たとえば甲状腺機能低下症、正常圧水頭症、ビタミン欠乏症などです。場合によっては、譫妄と呼ばれる状態、つまり病気による錯乱状態と、認知症とを区別するのが、むずかしいときがあります。錯乱状態ならば、回復が望めます。錯乱の原因は脱水症、肺炎、薬物反応、既往症の著しい悪化などです。脳腫瘍では、人格の変化が最初に現れることもあります。


アルツハイマー型認知症 回復が望めない認知症のなかで最も一般的。ほかによく見られる認知症は、レヴィー小体認知症、脳血管性(多発梗塞性)認知症など。

レヴィー小体認知症 パーキンソン病と密接に関係し、併発することもよくあります。症状としては、体がこわばって動かすのが困難になり、通常は記憶の喪失が表面化する前に、深刻な幻覚、妄想、激しい感情の爆発が現れます。アルツハイマーと区別するのがきわめてむずかしく、アルツハイマーの療法の一部はこの病気にも効果があります。

脳血管性認知症 脳の血流障害に伴う認知症に広く使われる名称。原因には、高血圧、高コレステロール、卒中などがあります。多発梗塞性認知症は、卒中が繰り返されることで発症します。大きな卒中が重なった場合だけでなく、さまざまな度合いの卒中が組みあわさった場合もあります。一過性脳虚血発作(TIA)は、一時的な神経障害を引き起こすもので、本格的な卒中をじきに生じるか、小さな卒中をすでに何度か生じている可能性があります。こうした症状が出たら、主治医に知らせてください。

前頭葉型認知症 脳の前頭葉が損なわれることで生じる認知症。ピック病(訳注 前頭葉が萎縮することで起き、初期に人格の変化や問題行動を伴うことが多い)が一般的ですが、遺伝的素因やほかの病気によって引き起こされることもあります。前頭葉は感情、行動、自制をつかさどる部位で、これが損なわれると、感情表現のありかたが変わったり、判断力がなくなったりします。

アルコール性認知症 アルコールの過剰摂取によって生じる認知症です。ふつうはチアミンおよびビタミンB1の欠乏症とも関わりがあります。初期症状はアルツハイマーに似ていますが、ビタミン療法によって改善または回復が望めます。


孫の名前を忘れるといったふつうの〝老化現象〟と、家族がいることすら忘れるような深刻な健忘症とには、大きなちがいがあります。ときおり物忘れをする程度なら、異常ではありません。わたしたちの脳は、思考の流れと自然に結びつく事項を記憶し、情報として提供するようにできています。つまり、まったく関係のない事項は、だれしも覚えにくいものなのです。年を取ると探るべき記憶の量が増えるので、特定の何かを思い出すのに時間がかかるようになります。だからといって、アルツハイマー病になったわけではありません。


おばさんはいままで、親戚全員の誕生日や記念日をけっして忘れず、ほかの親戚にも電話をかけては、当人にカードか花束を贈るよう促していました。とても自信に満ちあふれ、社交的で、笑いの絶えない人だったのです。ところが、最近はようすがちがってきました。非の打ちどころのない身だしなみで知られていたのに、場ちがいな服を着ることが増え、家族の集まりにもだらしない格好で現れるようになりました。内向的で心配性になり、ちょっとしたことで取り乱して泣き出します。一族のことはなんでも記憶していたのに、いまでは自分の子どもの名前もしょっちゅう忘れ、ときには甥や姪がいることすら激しく否定する始末です。

あなたはおばさんがアルツハイマー病にかかったのではないかと疑います。けれども、その結論に飛びつく前に、認知症は回復の望める病気から発症する場合も多いことを思い出してください。病院で身体的、精神的な検査を徹底的に受けさせましょう。ほかの可能性がすべて排除された時点で、ようやくアルツハイマー病という診断がくだされます。確認する時期は、早いに越したことはありません。おばさんはアルツハイマーの薬物治療をすぐに始められますし、将来どうすべきかについて自分の意見を伝えることもできます。

急に認知症を発症したときは、ただちに医者に診せましょう。感染症か栄養失調が原因の可能性があります。おばさんが摂っている食べ物や薬の正確なリストを作ってください。リストに入れる薬は、医師の処方薬、市販薬、ビタミン剤、各種サプリメントすべてです。それから身体的な検査を徹底的に受けさせてください。MRIやCTスキャンは、脳腫瘍、髄液漏れ、血栓を検知する手段としてとくに優れています。また、広範な血液検査を行なって、食物アレルギーの可能性はないか調べてもらいましょう。

4. うつ

ときおりたいした理由もなく、いきなりおねえさんが泣き出すなら、うつの可能性があります。ひょっとしたら、自分は役立たずで場ちがいだと感じているせいかもしれません。あなたがどんなにおねえさんを好きか、一緒に暮らしてどんなに嬉しいかをこんこんと説明してもいいですが、おねえさんが自尊心を取りもどし、社会の一員として役立っていると実感しないかぎり、何を言ってもむだです。おねえさんを頼りにしていることを伝えましょう。ただし、誠意をもって話すこと。大げさにまくしたてると逆効果です。相手はばかにされたと思い、いっそう心を閉ざすでしょう。

本書のアドバイスを参考に、おねえさんの興味を引く活動をいくつか計画しましょう。まずは小さな課題からゆっくり始めて、反応を見ながら広げていきます。何よりも、自分はまだ役に立つと実感させることが大切です。おねえさんの意見や提案を率直に求め、たとえ意味がよくわからなかろうと、返事には辛抱強く耳を傾けましょう。

本書に示された方法をすべて試しても思わしい反応が得られないなら、いよいよ専門家の助けを求めてください。アルツハイマー患者の多くは、抗うつ剤を処方されると不安が減り、気持ちが上向きます。ほかにも、抗うつ作用のあるハーブ療法やホメオパシー療法(訳注 健康な人に用いると疾患を引き起こす薬物を、少しずつ患者に与えて治療する方法。同種療法とも言う)がありますが、それらを採用する前に、必ず専門家の意見を聞きましょう。やっかいな副作用を生じたり、処方薬や市販薬と干渉したりする恐れがあるからです。また、おねえさんの精神状態、態度、気分を、こまめに記録しておきましょう。

5. 妄想

友人のアリシアにとって、妄想は真実の世界です。現実に引きもどすには、〝相手の世界にはいって〟事態を収拾し、そのうえで注意をほかにそらすといいでしょう。〝相手の世界にはいる〟とは、その妄想体験を、理解と思いやりをもって共有することです。彼女と同じように感じることができれば、たいていの場合、現実に引きもどせます。

たとえば、ある日、一緒に昼ごはんを食べているとき、アリシアがいきなり「あの熊をここから追いだして!」と叫んだとします。熊などいないと言い返したいところですが、ぐっとこらえましょう。深呼吸をして立ちあがり、こう言います。「きっと、あの熊はお腹が空いてるはずよ。外で何か食べさせてくる」

〝熊〟を部屋から連れ出すしぐさをしながら、ドアをしめます。もどってきたら、まじめな口調で言いましょう。「教えてくれてよかった。あの熊はすごく空腹だったみたい。でも、食べ物をあげたから、もう森にもどっていったわ。さてと、アイスティーをもう一杯いかが?」

6. 動揺

客間におにいさんが引っ越してくるので、あなたはひどく不安でしたが、しばらく生活してみると、とくに支障のないことがわかりました。おにいさんはおおらかな性格で、思ったよりずっと楽しい話し相手でした。

ところが最近、がらりと性格が変わり、短気で怒りっぽく、自分勝手になってしまいました。いっとき大声で罵ったかと思うと、次にはどっと落ちこみます。あなたはこの本に示された対処法をあれこれ試してみますが、どれも効果がありません。わけがわからず、困り果てます。こうした場合は、あなたと関係のない要因が潜んでいるはずです。身体的な問題が疑われるときは、医師に相談しましょう。次の項目のどれかひとつでも該当するなら、おにいさんの言動が変わった原因は、おそらく身体的なものです。

  • 最近、体の状態に何か変わりはなかったか。たとえば便秘、虫歯、脱水症などの症状はないか。
  • 治療に反抗的になっていないか。
  • 最近、本人の部屋になにか変化はあったか。
  • 靴がきつくはないか。着る服のことで文句を言っていないか。
  • ブリーフ(成人用おむつ)かパッドを使用している場合、つけ心地が悪いとか、濡れているということはないか。
  • 理解力や会話能力が急激に衰えてはいないか(本人がそのことに気づいて、いままで以上の助けを求めているのではないか)。
  • 最近、聴力、視力に変化はなかったか。

7. 徘徊

アルツハイマー患者は徘徊しがちなので、つねに連絡先の電話番号を記した身元のわかるものを持たせましょう。電話番号を彫った医療情報ブレスレットでも、アルツハイマー協会を通じて〝ぶじの帰宅〟プログラムから支給されるブレスレットでもかまいません。

ある朝、おかあさんがパジャマのまま、ひとりで散歩に出かけてしまいました。トイレに行くためほんのちょっと目を離しただけなのに、あなたが居間にもどると、玄関のドアがあけ放たれて、おかあさんの姿が見当たりません。通りに目を走らせますが、影も形もなし。当然のように最悪の事態を想像しながら、あなたは車に飛び乗って、近所を回ります。すると、おかあさんがいました。子どものような幸せそうな顔で、中型のプードルをなでています。

あなたはほっとすると同時に、ひどく心配させられたせいで、おかあさんを怒鳴りつけたくなります。このように、恐怖から怒りを生じるのは自然な反応です。たとえば、幼い子どもがボールを追って車道に飛び出したら、恐怖のあまりだれもが金切り声をあげるはずです。

あなたは車から降り、深呼吸をして、犬をなでつづけているおかあさんのもとへ行きます。そしてゆっくりと心を静めたあとで、車へ誘導します。せんさく好きな隣人がのぞいていたら、うなずいて笑顔を送りましょう。最初は、これほど自分を怯えさせた相手をどなりつけたい衝動に駆られますが、代わりに深呼吸をして言います。「おかあさん、わたしを置いて外に出ないでほしいの。次に散歩に行きたくなったときは、ちょっと声をかけてくれれば一緒に行くから。ね?」

続けて、こんなふうに言います。「きょうはほんとうに天気がよくて、外で過ごすには絶好の日よりね。散歩したくなる気持ちはよくわかる。今度は一緒に出かけたいな。ねえ、こういうのはどう? まずは家に帰って朝食をすませて、きょうこれからの計画を練るの。その気があれば、またあとで一緒に散歩してもいいし。ね?」

同じことがまた起こるのは目に見えているので、ここで腹を決め、きちんと対策を講じるべきです。あなた自身が囚人のように感じることなく、戸締りを厳重にする方法はあるでしょうか?

町なかに住んでいるなら、母親が徘徊する可能性があることを隣人に伝え、協力を呼びかけます。写真と身体特徴を載せたビラを近所一帯に配って(パート3の「近所へのビラ」の項を参照)、おかあさんの状態を知らせましょう。地元の店にもビラを渡し、おかあさんがまた徘徊したときに備えて日ごろから注意してもらいます。

田舎住まいの場合は、べつの問題が生じます。家の地所や庭は安全な柵で囲みましょう。さまざまな予防措置を講じたにもかかわらず、おかあさんが家からさまよい出たら、ただちに捜索救助隊に知らせてください。砂漠や森で迷子になって、熱射病か低体温症を起こす可能性が高いからです。

おかあさんを捜し出すのは、かなりのひと仕事です。混乱のせいで、きわめて独創的なうろつきかたをしているかもしれません。徘徊には論理があってなきがごとし。おかあさんは自分なりの〝故郷〟に、つまり、不安がなくて人生が単純だった子ども時代にもどろうとしているかもしれません。その場合、ごくあたりまえのように、〝かくれんぼう〟〝どろぼうごっこ〟〝宝探し〟などをして遊ぶはずです。おそらく、〝迷子〟になったという自覚さえないでしょう。本人としては、はっきりした目的と行き先があるのですから。

おかあさんのために医療情報ブレスレットを入手しましょう。それには、〝アルツハイマー病〟と刻みこんでください。たとえ実際はアルツハイマー病でなくとも、認知症にかかわる病名では、これがいちばん認識されやすいでしょう。

また、地元の警察と病院の救急センターを訪ねて、おかあさんの最新の写真と関連資料一式を渡しておきましょう。


アーノルドおじさんは、あなたが生まれる前にこの国に移住してきました。戦時中に故国が侵略されたとき、身の毛もよだつ経験をしたようです。その体験のせいで、軍隊ふうの制服姿をあたりに見かけると、おじさんは不安を募らせます。

このごろは、〝ちがう現実〟のなかで暮らすことが多くなりました。したがって、家からさまよい出たときは、必ず、おじさんの育った環境について捜索救助隊に話しておきましょう。制服姿の警察官や保安官を見かけたら、おじさんはおそらく、身を潜めていた昔を思い出し、当時の手法を駆使してなんとしても逃げようとするはずです。そうした事情を知れば、捜索隊の人々は、おじさんを恐がらせないよう民間人の服を着てくれます。

8. 攻撃的な態度

ある日突然、おばあさんが怒りを爆発させて、あなたを蹴ったり支離滅裂なことを叫んだりしました。怒りの引き金となる何かがあったのは確かです。とはいえ、何よりもまず、おばあさんの気持ちを落ちつかせましょう。注意を喚起できるよう大声できっぱりと、しかしあくまで優しく、こう言うのです。「おばあちゃんのことばが、よく聞き取れないの。ちゃんとわかるように、もう少し穏やかな声で言ってくれないかな。おばあちゃんの力になりたいのよ」あるいは、声を張りあげて「おばあちゃん、大好きよ!」と叫んでもいいでしょう。

あなたのことばに耳を貸してくれるようなら、「抱きしめてもいい? どうしてもしたいの、お願い」と頼みましょう。そして、おばあさんの体を両腕で優しく、けれどもしっかりと抱きかかえて、相手の緊張が解けるのを待ちます。興奮が静まったら、環境を変えるために、べつの部屋へ連れていきます。相手を座らせて「おばあちゃんが大好きだから、こんなふうに怒ってるところを見ると、すごくつらいな。力になりたいんだけど。どうしたのか話してくれない?」と訊ねましょう。

すると、こんな答が返ってくるかもしれません。「家に帰してちょうだい。わたしを囚人みたいに閉じこめて! ここにはもう、いたくない。家に帰りたい!」おばあさんの言う〝家〟は、あなたと暮らす前に住んでいた小さなアパートかもしれないし、子ども時代を過ごした家かもしれません。いずれにせよ、いまのおばあさんの精神状態では、その〝家〟にほかの人が住んでいることを説明してもむだです。べつのときには、事実を受け入れて納得できるでしょうが、いまはちがいます。ですから、こう言いましょう。「じゃあ、あとで帰ろうね。だけど、ちょうど昼ごはんを作っていたところだし、おばあちゃんもさっきはお腹が空いて死にそうだって言ってたから、まずはお昼を食べようよ」

ゆっくり昼食を取ったあとで、こう言いましょう。「このあいだ話したかもしれないけど、こんなに長い時間おばあちゃんと過ごせるようになって、すごく嬉しいのよ。一緒に住んでくれて、ありがとう!」


外出時 あなたは、おしゃれなレストランでおばあさんと楽しく昼食を取って、いまから家へ帰るところです。レストランのドアから混みあう歩道に出たとたん、おばあさんが怯えだしました。あなたの手から腕を引き離そうともがき、こう叫びます。「助けて、警察を呼んで! 警察を! 助けて、誘拐されてしまう!」

思いきり腕をたたかれて、どこにこんな力があるのかと、あなたは驚きます。何人かが足を止め、目をみはります。ほかの人たちは巻きこまれたくないので、すばやく視線をそらします。そこへ男の人がひとり、〝助け〟に来ました。おばあさんがその腕をつかんですがりつくので、あなたはやむなく手を放します。そして男の人の顔を見ると、こちらを怖い顔でにらんでいるではないですか!

いままで、これほどびっくりしたことはありませんでした。介護施設や病院が脳裏にちらつき、そこへ入れるのがいちばんではないかと思えてきます。他人の目には、おばあさんはいたって正気に見えるのに対し、こちらはひどく取り乱しているせいで、まともな人間には見えません。その男の人にも、悪い人間だと思われているはずです。あなたは屈辱感に打ちのめされます。

まずは深呼吸をして、ふつうの声が出せるようになってから、穏やかな口調で男の人に言いましょう。「祖母を助けに来てくれて、ほんとうにありがとうございます。アルツハイマーのせいで、こうした人混みで閉所恐怖症を起こすことがあるんです。ご心配をおかけしました」

〝救出者〟を納得させるために、今回にかぎっては、子どもに対するような口調でおばあさんに話しかける必要があるでしょう。残念ながら、たいていの人は、介護者はそうするものだと思っているからです。「おばあちゃん、もう帰る時間ですよ。さあ、この親切なおじさんにお礼を言いましょうね」

人混みを抜け出したあとは、怒りを抑えるのがまたひと苦労です。たいていの場合、おばあさんはもう、何があったのか忘れてしまっています。けれども、あなたのほうは気持ちがおさまらないので、胸のつかえを降ろす必要があります。アルツハイマーのサポートグループなり、親しい友人なり、家族なり、とにかくだれかに電話をかけて、起きたことを話し、気持ちをぶちまけましょう。

あるいは、こんなこともあります。一緒にデパートをぶらついているとき、おかあさんの腕のあざに店員が気づいて、何か言いました。するとおかあさんは、いきなり大声でこう叫びました。「娘がやったのよ! この娘はわたしを殴って、監禁するの! すぐに警察を呼んで!」

店員があっけにとられているあいだに、あなたはおかあさんの腕をつかんで、急ぎ車にもどります。ところが帰宅後、このできごとを忘れたころになって、警察官と成人保護サービス(訳注 高齢者に対する虐待防止のための機関)の人が戸口に現れました。さあ大変! あちこちに電話をかけ、長々と説明したあとでやっと、母親がアルツハイマーであること、腕のあざは軽い打ち身であることを、ふたりの訪問者は納得してくれます。そして、励ましのことばを残して去ります。あなたとしては、もう二度とこんな目に遭いたくありません。では、どうすればいいのでしょう?

店員が警察に連絡したのは、しかたのないことです。なにしろ、おかあさんは見た目も話しぶりも正常な人間とまったく変わりがないのですから。次にこうした状況に陥ったときは、きちんと説明してから立ち去りましょう。あらかじめ、〝アルツハイマー患者〟や〝記憶障害者〟と書かれた医療情報ブレスレットを身につけさせておけば、他人もすぐに状況をわかってくれます。また、地元の警察や救急病院に連絡しておくのもひとつの方法です。おかあさんの写真を渡し、身体的な特徴を伝えておくのです。そうすれば、前述のようなことが起きたとき、警察へ電話してもらうだけで、母親がほんとうに病気であることがすぐにわかります。こうした対策をとって、不愉快な成りゆきを避けましょう。

9. 悪態

認知症になった人が、それまでずっと抑制してきた言動をあらわにするのは、珍しいことではありません。悪態も、そういった表面化のひとつです。いきなり次から次へと罵りことばを浴びせられたら、できるかぎり平静を保って、これは病気のせいであり、本人もどうすることもできないのだと、自分に言い聞かせましょう。

おとうさんは午後じゅう、ひとりの世界に引きこもっていました。なんとか関心を外へ向けさせようとしましたが、ただ廊下を行ったり来たりしつづけています。そして何やらぼそぼそ話していたかと思うと、急に大声で悪態をつきはじめました。そんな汚いことばをおとうさんの口から聞いたのは、はじめてです。たまに災難に見舞われたとき「くそったれ」「ちくしょう」などと漏らすことはありましたが、いつもあとで周囲の人に謝っていました。一〇歳のあなたが独創的な罵りことばを試しに使ったところ、おとうさんに石けんで口をごしごし洗われたというエピソードがあるくらいです。

なのに、いまや罵りことばのオンパレード。あなたは呆気にとられます。最初は、なんとしてもやめさせようとするかもしれません。「おとうさん! 何を言ってるんだよ。この家でそんなことばを使うのは許さないからね。すぐにやめてくれ!」こんなふうに言うよりも、まずは深呼吸をして、いたずらに騒ぎ立てないよう努めましょう。気を静め、たいしたことはないという顔をして、二、三の悪態につきあうのです。

「『ど腐れ野郎』って、こうして聞いてみると変な響きだね」

ユーモアを用いるのもいいでしょう。「それって、大がつくほどひどい人間ってことかな、それとも、中くらい?」と、真顔で訊ねるのです。

また、通常の会話で使ってみせれば、特別なことばとは思えなくなり、興味を失うかもしれません。でなければ、一連の悪態をまったく無視することです。この問題については、試行錯誤を重ねる必要があるでしょう。公衆の面前で始めたら、穏やかに「おとうさん、この人たちは、そういうことばには慣れていないんだよ。べつの言いかたを考えたほうがいいな」と諭し、ほかの人には事情を説明してください。「アルツハイマーのせいなんです。真に受けないでやってください」と。

10. 執着

アルツハイマー患者がなぜ、突然ひとつのことがらに執着しはじめるのか、理由はわかっていません。こうした状況が生じたら、流れに任せましょう。状況を変えることはたぶん、できないでしょうから。あなたの心がひどく乱されるようなら、過去に効果があった〝注意をそらす方法〟を試しましょう。

たとえば、奥さんが突然、ひとつの皿にたくさんの料理があると食べたくない、と言い出しました。あるいは、ミックスベジタブルを一種類ずつ選り分けて山にし、食べはじめるころにはすっかり冷え切っています。こうした場合、数週間ようすを見たあとで、奥さんの新しい習癖に合うよう料理の方法や盛りつけを変えましょう。一度に一種類の料理しか出さないようにするのです。

また、手を携えて散歩しているとき、奥さんが前方を見ていないことに気づきました。ブラウスのボタンをじっと見つめ、指でいじっています。一分かそこらは、ほかへ注意を引くこともできますが、指はまたすぐボタンにもどります。気づくと、すでにボタンが二、三個はずれています。この新しい癖は、前ボタンのブラウスを着るたびに繰り返されます。いちばん簡単な解決策は、セーターか、うしろあきのブラウスに替えることです。

あるいは、なぜか夫は、いつもごく小さな埃を見つけてしまいます。現実であれ、想像上のものであれ、車の座席や、友人のジャケット、窓敷居、食事の皿に埃を見つけては、苦労してつまんで、それを持ちつづけるのです。無理に捨てさせようとすると、怒って意地でも持ちつづけようとします。その場合、ラベルに〝埃用〟と記した容器を与えれば、そのうちそこに捨てるはずです。

11. 失禁

排尿や排便は、呼吸と同じように肉体の自然な機能です。けれども、幼児期にトイレ訓練を受けて以降、わたしたちはこれを恥ずかしく汚らわしい行為と考え、便を漏らさないよう心がけて暮らしています。ごく幼いうちに、トイレを使いなさい、用を足したあとはしっかり拭きなさい、と頭にたたきこまれた結果です。その点はおかあさんも同じです。

けれども、ときどき、手遅れになってから気づくことがあります。粗相をするとおかあさんは激しく動揺するでしょうが、できるだけ長くひとりで用を足すことが重要です。粗相の原因はおそらく、短期記憶の喪失でしょう。前回トイレに行った時間を覚えていないので、肉体に促されてようやく必要性に気づいたときにはもう手遅れ、というわけなのです。

なんらかの対策を施しているとしても、粗相をすればやはり、おかあさんは動揺し、恥ずかしく感じるはずです。失禁対策を施すときは、〝パッド〟か〝ブリーフ〟と呼んで、けっして〝おむつ〟という語を使わないようにしてください。おとなにとって、自尊心を傷つけることばだからです。また、面倒くさいかもしれませんが、パッドは汚れたらすぐに取り替えましょう。

頻繁に、あるいは決まった時間に、トイレに連れていくよう習慣づけるといいでしょう。たとえば食事のあと、外出の前、昼寝や就寝の前、起きてすぐ、といったふうに。トイレまでつき添って、動作をひとつひとつ指示し、ほんとうに用を足したかどうか見届けてください。急に上の空になるとか、体をくねらせるといった、外に現れる徴候を見分けるのも有効な対処法です。

外出するときは、あらかじめパンティの股の部分にライナーやパッドを当てておくといいでしょう。失禁が頻繁になったら、いろいろな対策商品の導入を検討してください。吸収力の高いライナーか〝ハーフタイプ〟のブリーフでこと足りるかもしれません。〝フルタイプ〟で、ウエストをテープで留めるものの場合、アルツハイマー患者がひとりで脱ぐことはまずできません。


粗相 おかあさんがついさきほど〝粗相〟をして、ひどく取り乱しているとしましょう。あなたは昼食後にトイレに連れていきましたが、映画館から出てみると、パンツに染みができていました。おかあさんはひどく興奮し、だれかに変なパンツをはかされたと大声で文句を言って、染みを激しくこすっています。こんなとき、最善の対処法は、平然とトイレに案内することです(どういうわけか、こういうときにかぎって、トイレが建物の反対側にあるものですが)。

こんなふうに言いましょう。「ちょっとトイレに行きたいんだけど、おかあさんも一緒に行かない? 下着をもう一枚持ってきてるから、それに着替えてしまえば、気分もずっとよくなるはずよ。この染みはすぐに乾いちゃうし、家に着いたら、べつのパンツに穿き替えましょう」

そうやって話しながら、トイレへ案内するまでずっと冷静さを保っていれば、変に思う人はほとんどいないはずです。しかも、そうした口調や態度で、他人の目よりおかあさんのほうが大切だと、本人に知らせることができます。おかあさんをけっして急かさないこと。トイレに着いたら、朗らかさを保ちつつ体を拭いて、清潔な下着に替えさせましょう。

他人がまわりにいると気恥ずかしいでしょうが、何気ないふりをしてハーフタイプのブリーフを取り替えてください。おかあさんには、トイレに座りつづけてもらいましょう。そのほうが、楽にできるはずです。公衆トイレはたいてい個室が狭いので、扉をあけたままでないと作業ができないかもしれません。うまく身障者用トイレが見つかれば、もっとプライバシーが保てます。

作業のあいだじゅう、ふつうの口調で話しつづけましょう。最初はむずかしいと思いますが、だれにでも起こりうることですし、何より大切なのは、おかあさんが幸せに暮らせることですから。トイレにいるほかの人が、こんなふうに言ってくれるかもしれません。「わたしがそんなふうになったとき、あなたみたいに世話してくれる人がいるといいんだけど!」


就寝時 おとうさんは日中はひとりで用を足せるとはいえ、あなたが促さないといけない状況です。ほんとうに必要になる前から、寝具をビニールシーツで覆っておきましょう。実際に必要になったら、シーツの上に敷きパッドを載せます。できれば、毛布類の代わりに、カバーをかけたキルティングの掛け布団を使いましょう。混乱のある人にとって、毛布などの薄い布団は、トイレに駆けこむとき体に絡みやすいのです。

何より大切なのは、寝る前の二時間、何も飲ませないこと。また、ちょっとした粗相に備えて、ハーフタイプのブリーフをつけてもらいましょう。そのほうが着脱が簡単だからです。

こうして準備を整えても、夜のどこかの時点で、おとうさんにトイレを促す必要があります。手遅れになって粗相をしても、思いやり深い態度で安心させましょう。「だいじょうぶ、だれだって粗相をすることはあるのよ、おとうさん」朗らかな声で関係ない話をしながら、シーツやパジャマを替えます。夜中の三時であろうと、朗らかさを忘れずに。

最終的には、フルタイプのブリーフに移行する必要があるはずです(ここでいう〝ブリーフ〟とは、おとな用おむつの代用語です)。ふつうの下着のように、ウエストに伸縮性があって、上げ下げが楽なタイプもあります。ウエストをテープで留めるものは、おとうさんひとりでは脱げないので、翌朝、あなたが脱がさなくてはいけません。


対策用品 失禁対策用品には、生理用ナプキンからフルタイプのブリーフまでさまざまなタイプがあって、どれにするべきか迷うはずです。基本的には、次の四つに分類されます。

  • 軽失禁用:パンティライナー
  • 中失禁用:ハーフタイプのブリーフ(伸縮性のウエストか伸縮性のテープつき)
  • 重失禁用:フルタイプのブリーフ(テープで留めるものか、アルツハイマー患者にとって使い勝手がいい、ウエストに伸縮性があるもの)
  • 敷きパッド:ベッド、椅子、車のシートの保護用

これらの商品は地元のスーパー、ドラッグストア、協同組合ですぐ手にはいります。介護用品の専門店や一部の通信販売では、特別仕様の商品も売っています。

12. うろうろ歩き

うろうろ歩きは、アルツハイマー患者によくある現象です。遅い時間に生じるものは、〝夜間の不穏〟と呼ばれます。患者が動きまわりたいという肉体的欲求を抑えられない場合、うろつく道のりの安全を確保し、脱水症状を起こさないよう飲料水をじゅうぶん摂らせてください。

おじいさんがうろうろ歩きを始めました。廊下を進んで、キッチンを通り抜け、居間から廊下にもどって、また同じことの繰り返し。もう何周も家のなかを回っています。痛々しくて見ていられないばかりか、あなたは気が散ってしかたがありません。

そこで、おじいさんをひとりきりの空間に導いて、何か課題を与えます。相手はとても協力的で、数分間はじっとしていますが、やがてうろうろ歩きを再開します。こういう場合は、天気さえよければ、外に連れ出して近所をひとブロック歩きましょう。おじいさんも落ち着くし、ふたりにとっていい運動になります。

当然ながら、心理的な要因もじゅうぶん考えられます。たとえば、やるべきことをやっていないという気がするのに、それが何だかはっきりわからないとき、思い出そうとしてうろつくわけです。こういった状態は、かつて活動的だった人にとっては、とくにつらいはずです。集中力を促してくれる精神的な刺激が必要かもしれません。作業場を設けて、昔の職業や経歴に関係のある作業をさせてあげるといいでしょう。

何かの薬を飲みだしたとたん、うろつき歩きが始まったら、できるだけ早く主治医に相談してください。薬物によっては、心理的な問題を引き起こすことがあります。治療薬が原因と思われる場合は、主治医が代わりの治療法を提案してくれるはずです。

14. 溜めこむ

物を隠したり溜めこんだりするのは、アルツハイマー患者によくあることです。おおむね害のない習性ですが、それでも、たびたび引き出しをのぞいて、食べ物が隠されていないかチェックしてください。腐ったら悪臭を発するばかりか、健康を害する恐れもあるからです。隠し場所としてほかに多いのは、くずかご、ポケット、靴で、隠す物は眼鏡、入れ歯、補聴器が上位を占めます。

ある日、おねえさんの部屋を掃除していると、二個の石けんがベッドの下に隠されていました。数日後、整理だんすの最上段の引き出しに、もう二個発見しました。どうりで、風呂場の石けんがすぐになくなるわけです! あなたは、石けんは浴室に置いておくものだと説明しますが、おねえさんはそんなことは百も承知なので、いらだたしげにうなずくだけです。とはいえ、一〇分後には、何を言われたのかも忘れてしまうでしょう。

おねえさんは大恐慌を経験しているので、倹約にはひどくうるさく、小さな石けんのかけらでさえおろそかにしません。そこで、あなたは対処法を変えます。バスケットに〝石けん〟とラベルを貼って、整理だんすの上に置き、あちこちで見つけた石けんのかけらをそのなかに入れておきます。そして、数週間後に、石けん入りバスケットを浴室に移そうと提案するのです。自分が使う石けんは液体タイプに替えましょう。たぶん、おねえさんは使いかたがわからないので、放っておいてくれるはずです。

これがうまくいかない場合、あるいは隠す物が多岐にわたる場合、戸棚と引き出しすべてにチャイルドロックを取りつけて、隠されては困る物をそこに収納するのもひとつの方法です。隠し物のチェックは続けたほうがいいですが、とくに問題がなければ、お気に入りのいくつかはそのまま置いておきましょう。

15. 服を脱ぐ癖

おとうさんがしょっちゅう、しかも人前で服を脱ぐせいで困っている場合は、他人の手を借りなくては簡単に脱げない特殊な形の服を買いましょう。たとえば、ファスナーが背中にしかついていない上下つなぎの服なら、ひとりで脱げないはずです。ただし、トイレのたびに手伝わなくてはならないので、覚悟してください。

ミシンを持っているなら、すでにある衣類を直してもいいでしょう。シャツの前を縫って閉じてから、背中にファスナーをつけるのです。念を入れたければ、スウェットスーツの上下を縫いあわせ、背中に長いファスナーをつけて、つなぎを作ります。

ある日、おとうさんが一糸まとわぬ姿でダイニングルームにはいってきました。生まれたままの、すっぽんぽんの状態。あなたはショックで息が止まりそうになり、なんとか非難の気持ちを表さないよう努めますが、これは想像を絶する事態です。慎み深く育てられたので、おとうさんの裸にぎょっとするあまり、はじめは、どう対処したらいいのか見当もつきません。

まず、深く息を吸いましょう。

それから、できるだけさりげなく言います。「あら、おとうさん。何を着るか決められないようね。さあ、部屋にもどって、きょう一日のために、うんとすてきな洋服を見つけましょう」

または、こう言います。「今夜は少し寒いみたいよ。何か着るものを探したほうがいいんじゃないの。きょうは何を着たい? 紺色のセーター? それとも、先週買ったベージュのスラックスと茶色のシャツ?」

おそらく、おとうさんは協力的になって、服選びを手伝わせてくれるでしょう。裸になるには、もっともな理由があるはずです。ただ単に、着替えのしかたやクローゼットから服を取り出す方法を忘れたとか。暑くてたまらなかったとか。あるいは、夏の暑い日ではない場合、発熱していて、どこか変だと伝える手段がこれしか思い浮かばなかった可能性もあります。

体調に問題がなく、ただ服を着たがらないだけなら、家のなかで裸になるぶんには大目に見てはどうでしょう? それでも裸を目にするのがきまり悪くて、さりげなく服を着るよううながしても断固拒まれるときは、昼寝をさせて、目を覚ましたら服を用意しましょう。きっと、裸になりたかった理由を忘れて、快く服を着てくれるはずです。

16. 習慣へのこだわり

アルツハイマー患者のなかには、こだわりが強くなる人がいます。もしかしたら、混乱した世界に秩序を持ちこもうとしているのかもしれません。生活に大きな変化が生じたとき、突然、強いこだわりを生じる場合もあります。また、巻き爪などの身体的な不快感や疾病、環境の変化、家族の増加も要因となります。

フリーダおばさんは、執拗に数を数えるようになりました。病院で健康診断を受けましたが、どこにも異常は見られません。数を数えること自体はなんら問題ではないし、それによっておばさんは、ある種の安らぎを得られるようです。一緒に散歩するときは階段の段数を数え、着替えのときも何かを数えています。会話や活動に身がはいらないときは、きまって数を数えはじめるのです。こうした数遊びにいらいらを募らせるよりは、進んで参加してみましょう。「ドアまで一〇〇歩以上あるかな? わたしはあると思う。いま八四まで数えたよね? 八五、八六……わあ、もうこんな数になってるのね。でも、おばさんの判断を信じる。子どものころ、算数の宿題を手伝ってもらったのを思い出すな。おばさんがいなかったら、何ひとつ身につかなかったかもしれないわ」

17. 家に帰りたがる

アルツハイマー患者は、現在については記憶のほとんどを失っているか、ばらばらな記憶しか持っていません。おばさんはもう何年もあなたと暮らしていますが、ちがう現実に逆行してしまったとき、あなたの家が奇妙に感じられます。最も損傷が少ない記憶はもっぱら子ども時代なので、そのころのなじみの場所にひどくもどりたがります。

〝家に帰り〟たがるというのは、アルツハイマー患者共通の現象です。これが生じたときいちばん思いやりのある対応は、おばさんの願望を認めたうえで、注意をそらす対象を提供することです。簡単にはそらされてくれない場合もあるので、そういうときには〝愛情からのうそ〟をついて、気持ちを和らげます。


おねえさんはしょっちゅう、荷物を腕に抱え、確固たる口調でこう告げます。「わたし、家に帰るね! どうしても帰らなきゃ。もう放っておいて! これ以上、だれの世話にもなりたくないの。車で送ってくれなくても、けっこう。三〇キロも歩くことになるから、すぐにここを出なくちゃ!」

前にもあなたは、自分のマンションを売り払ってあなたの家へ越してきたことを説明して、納得させようとしましたが、おねえさんはひどく怒って、大うそつきだの、監禁してるだのと非難するばかりです。

ときには、こうも言います。「もう帰らなきゃ。門限までに帰らないと、おかあさんが怒るから」そこでようやく、あなたにも事態がのみこめました。おねえさんは以前のマンションにもどりたいわけではないのだ、子ども時代のことを話しているのだ、と。ですから、腕を体に回してこう言いましょう。「おかあさんから電話があって、あとで迎えにくるそうよ。先に夕飯を食べておいてちょうだいって」

あるいは、母親がもう生きていないことを、おねえさんはなんとなく認識しているかもしれません。そのときは、穏やかにこう説きつけましょう。「おねえさん、おかあさんはもう何年も前に死んじゃったけど、わたしはまだ認めるのがつらいの。木曜日にはいつも夕飯を食べに来てたから、いまもときどき、気がつくとおかあさんの席を用意してるのよ……いまはおねえさんと一緒に暮らしてるから、寂しくはないけどね」

こんなふうに家に帰りたがるのは、不安や孤独を感じているか、生きる目的がないせいです。自分の部屋を片づけるよう勧めると、いい気晴らしになるかもしれません。

ふたり一緒に楽しめる何かを始めるのも、ひとつの方法です。できれば、以前おねえさんが楽しんでいたこと、たとえば裁縫、ガーデニング、料理などがいいでしょう。「おねえさん、帰る前に、サラダのドレッシング作りを手伝ってくれない? あの特別レシピが気に入ってるんだけど、まだこつを飲みこめなくて」といったふうに。帰ることについては反対せずに、ただ引き延ばしてください。うまく注意をそらせれば、当初の願望はすぐに忘れてくれます。

ただし、注意をそらす対象は、おねえさんが達成感を味わえるような、短時間で終えられる作業でなくてはいけません。うんざりするほど動きが遅いので、あなたは忍耐力を試され、結局、作業のほとんどを引き受けるはめになります。けれども、おねえさんは、自分がまだ役に立てて、ちゃんと社会参加している、という気になれます。課題をやり遂げたら、抱きしめて心から感謝しましょう。「手伝ってもらえて、よかった。おねえさんがいなかったら、どれだけ時間がかかったかしら。ほんとうに、ありがとう」

18. 痛み

いとこのローダは、認知症のせいで、痛みがぶり返すまでは傷や腫れ物の存在を忘れていることがあります。背中のうずきがぶり返してローダが赤ん坊のように泣いていたら、とっさに慰めたくなるのが人情というものです。あなたは気遣いを込めて、こう言うかもしれません。「まあ、ローダ。また背中が痛むのね?」

けれども、この場合、ローダに気遣いを示すつもりが、意図せずして、相手が認知症のせいですっかり忘れていたふたつの点を伝えることになります。ひとつは、ローダの背中に傷があること。ふたつめは、口調から察するに、深い傷であること。というわけで、ローダのためを思うなら、努めて明るい表情を保ち、気遣いは声に出さないようにしてください。ローダが痛みを訴えたときは、こんなふうに言いましょう。「ローダ、手を貸すから、体をまっすぐ起こしてね。きっと、気分がよくなるはずよ」

あるいは、ローダの手の甲にひどい切り傷があって、そろそろ包帯を替えて軟膏を塗りなおす時間が来たとしましょう。包帯をはずすときは痛みを感じるので、ぬるま湯に浸したコットンボールで包帯を湿らせます。そして、嚙んで含めるように、作業をひとつひとつ説明します。「ローダ、包帯を替えるわね。あなたはけがをしているから、ちゃんと治るよう、軟膏を塗りなおして新しい包帯を巻くのよ。包帯は自分ではずす? それとも、わたしがはずしましょうか?」

ローダは自分でやろうとしますが、結局は、あなたの手を借りることになるでしょう。「できるだけそっとはずすね。そんなに痛くないといいけど」あなたの動作とその理由を逐一説明すれば、いとこはちゃんと対処できるはずです。ただし、何度も説明を繰り返す必要があるかもしれません。

認知症のおかげでけがの記憶がないため、気持ちが安らげば、ローダは痛みを忘れるはずです。


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読み PART1ただしいちしきとしょうじょう
作成者 openknow84
作成日時 2008年10月10日 19:00:22
最終更新者 openknow84
最終更新日時 2008年10月10日 19:00:22
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