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Part 4 日常生活の知恵 [印刷用 タイトルあり] [タイトルなし]

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書籍名 アルツハイマーガイドブック
見出し Part 4 日常生活の知恵

内容

  1. Part 4 日常生活の知恵
    1. 52. 自宅での安全
    2. 53. 歩行
    3. 54. トイレ
    4. 55. 入浴
    5. 56. 着替え
    6. 57. ファスナー
    7. 58. キッチン
    8. 59. 食事
    9. 60. 運動
    10. 61. 歌
    11. 62. ゲーム
    12. 63. ガーデニング
    13. 64. 映画
    14. 65. 音楽
    15. 66. 読書
    16. 67. 外出
    17. 68. レストラン
    18. 69. 運転
    19. 70. ペット
    20. 71. 電話
    21. 72. テレビ
    22. 73. ビデオ
    23. 74. 動物園
    24. 75. ワードゲーム

Part 4 日常生活の知恵

一緒に楽しみ励ましましょう

52. 自宅での安全

家全体を改修しなくてもできる安全策が、いくつかあります。たとえば専門業者に頼んで、安全手すり、水道の開閉弁、電気事故を防ぐための隠しスイッチを取りつけてもらいましょう。台所や風呂場はトラブルが最も起きやすい場所ですが、車庫や倉庫も忘れてはいけません。


窓とドア 玄関は、二重の安全錠を取りつけるなど、おかあさんひとりではあけられないよう工夫しましょう。また、ドアに停止標識か〝ここから外に出ないこと〟と書いた札を貼ってください。あけて欲しくないほかの扉にも、同様の標識をつけます。効果がないときは、玄関の前にカーテンをつるすか、ドアに等身大の鏡を取りつけましょう。

高層階に住んでいる場合は、すべての窓に、しかるべき金網と鍵をつけてください。バルコニーがあるなら、そのドアにも鍵を忘れずに。ただし、天気のいい日は、おかあさんをバルコニーに連れ出すよう心がけましょう。

自宅が郊外で、おかあさんに徘徊の傾向がある場合には、庭をフェンスで囲って門に鍵をつけ、本人には住所氏名を記した識別ブレスレットを常時はめさせてください。


キッチン おかあさんがキッチンをうろついて事故が心配なときは、次のような予防策を講じましょう。

〔チェックリスト〕

  • 切れ味のいいナイフは手の届かないところに置く。
  • あけて欲しくない戸棚すべてに、チャイルドロックをつける。
  • 清掃用具はすべて手の届かないところに置く。
  • 小型の電気器具は電源を抜いておく、あるいは流し台に置きっぱなしにしない。
  • こんろの点火スイッチをはずしておく(訳注 日本の場合、スイッチの部分が取りはずせるタイプのものはないが、チャイルドロックつきのものはある)。
  • 流し台の水栓をはずしておく。
  • ディスポーザーと皿洗い機の電源を抜いておく。

風呂 バスタブのなかかシャワーの脇に手すりを設け、床に滑り止め処理がされていない場合は、大きな安全マットを敷いてください。トイレには手すりをつけてもいいし、自立型の安全手すりを据えてもいいでしょう。

おとうさんがしょっちゅう水を出しっぱなしにする場合、洗面台やバスタブの水栓をはずして、洗面台の下に開閉ボール弁を取りつけましょう。また、やけどを防ぐために、湯沸かし器の温度設定を下げておいてください。

シャワーヘッドを据えつけタイプから手で持てるタイプに替えれば、入浴がかなり楽になり、抵抗も減ります。まずシャワーの湯を出しておいて、おとうさんを浴室に招じ入れ、自分でシャワーヘッドを持たせましょう。そうすれば、それほど恐がらないはずです。

洗面所の戸棚から薬類をすべて取り出し、おとうさんの手が届かない戸棚へ移してください。洗剤も同様です。歯磨き液と皿洗いの洗剤はまちがいやすいので、気をつけましょう。両方ともレモンの香りがする場合は、とくに要注意。


火の安全 事故を誘発するものがないか、家じゅうを検分しましょう。よかれと思って何かを始めても、おばさんはたいてい途中でそれを忘れてしまいます。たとえば、あなたにコーヒーを入れようとしてコンロに火をつけ、すっかり忘れてしまうとか。

マッチやライターに興味を示すようなら、手の届かない場所に移してください。ディナーのときろうそくを灯すと気分が盛り上がりますが、火をつけたままで、おばさんをひとりにしないこと。消火器をいくつか買って、台所のなかやリビングの近くなど要所要所に設置しておきましょう。年に一度、消火器の点検を受けてください。

53. 歩行

奥さんはこのごろ、見るからに恐る恐る歩いています。動作が鈍くなり、靴のつま先で道を探っているようです。最近受けた視力検査ではそれなりに正常な結果だったので、混乱の原因は認知症にちがいありません。奥さんの歩行が困難になったのを受けて、あなたは自分自身がどんなふうに動きまわっているのか、気をつけるようになりました。その結果、前方のようすをつねに観察し、頭に留めながら歩いていることに気づきます。無意識のうちに、行く先を〝記憶〟しているのです。

そうであるなら、奥さんの行動にも合点がいきます。抽象的な思考と記憶力全般に問題を抱えているので、歩行に困難が生じるのも不思議ではありません。なにしろ、歩くときに行く手の状態を〝記憶〟できないのです。

日ごろから、奥さんの目と記憶の代わりを務める習慣をつけましょう。相手の腕を取って、地面のようすを詳しく解説します。たとえば、こんなふうに。「そこは歩道の縁石が出っ張っている。あとはしばらく平らな道だよ」曲がり角に近づいたら、こう言います。「この先の角を曲がろう。ちょっと段差はあるけど、階段はないからね」

建物のなかで階段の前に来たら、つま先で一段めをたたいて言います。「さあ、三段降りるよ。まずは一段め」こうした解説にさいしては、考えていることを声に出すようにするといいでしょう。やがては、それが習慣になり、友人が一緒のときもごく自然に解説できるはずです。

奥さんと散歩に出かけるさい、効果的かつ安全に腕を組んで歩くには、以下の指示に従ってください。

  • ひじを曲げ、自分に近いほうの奥さんの腕(奥さんもひじを曲げている)を取ります。
  • 奥さんの手を軽く握ったうえで、相手のひじが自分の腰に当たるようにして体を支えます。こちらが腕全体でしっかり安全に支えれば、相手はよろめいても立ったままの姿勢を保つことができ、けがの可能性も最小限にとどめられます。
  • 互いの指をからめないよう注意すること。奥さんの体をすばやくつかむ必要に迫られたとき、指をほどいていては、反応が遅くなります。

以上のような方法で相手を支えると、奥さんの足もとが安定するばかりか、ふたり並んで歩くことになるので、会話もいつもよりはずんで親密さが増します。また、そのおかげで、奥さんはあなたと対等の立場であると感じるでしょう。

  • 奥さんを引っ張ったり、先に立って歩いたりするのは避けること。というのも、相手の動きが見えないからです。また、これらは、もどかしいときに用いる性急な手段でもあります。

わたしたちの多くは、おとなの基準からは歩くのが遅い子どもを、同じように引っ張りまわした経験があるはずです。相手が子どもでもおとなでも、このような扱いは思いやりに欠けています。

54. トイレ

できるかぎり長いあいだ、患者ひとりでトイレに行くことが大切です。そばで見守る必要がある場合は、穏やかな声で、簡潔に動きを指示しましょう。外出の前には、たとえば、こんなふうに言います。「出かける前に、トイレに行かなくちゃ。おねえさん、お先にどうぞ。わたしはすぐあとで使わせてもらうわね。流すのをまとめて一回にすれば、一〇リットルの水を節約できるのよ!」

相手がためらったとき、あるいは服をどうすればいいのか、トイレをどう使えばいいのかわからないようすのときは、こんなふうに優しく教えましょう。トイレを指して言います。「ほら、ここがトイレよ。ズボンと下着を膝のところまで下げて。そうそう。これで便座に腰をおろしてもだいじょうぶ。手を貸すわね」

指示や補助が必要な場合には、ことばを選んで、「いいえ」と答えさせないよう誘導してください。たとえば「ほら、ここがトイレよ、手を貸したほうがいい?」と言えば、相手はおそらく「いいえ」と答えるでしょう。それよりも、返事を求めない言いかたをするのです。「ほら、ここがトイレよ、手を貸すわね」

できるなら、すぐそばの椅子か何かに座って、おしゃべりを続けましょう。そして「ちゃんと用を足せた?」とか、「〝大〟の必要はある?」とか、相手のいちばん理解しやすいことばで聞いてください。終わったら、トイレットペーパーを渡して、使いかたを示します。

「これは拭くための紙よ。おねえさんのあそこを拭いてね」もしかしたら、実際にやってみせる必要があるかもしれません。「ほら、こんなふうにね。さあ、これでおねえさんは終わり。お疲れさま! おねえさんがズボンと下着を穿いたら、わたしの番ね」

あなたが用を足すあいだ、相手をトイレのなかに留めるか、ドアをあけたままにして、あなたも同じ動作をするところを見せて安心させましょう。トイレを使うのはいたって自然な行為です。こうして、できるかぎり体験を共有すれば、信頼と自信を培えます。

ある朝、着替えを手伝っていると、おねえさんの爪が茶色の物体に覆われていることに気がつきました。そしてふいに、肛門を掻いたのだと思い当たります。トイレットペーパーの使いかたがわからなくなったのかもしれないし、便秘がちで、自分でなんとかしようとした可能性もあります。アルツハイマー患者の場合、珍しいことではありません。というより、よくある話です。今後は、姉がトイレを使ったあと、それとなく手を調べたほうがいいでしょう。

ともあれ、いまはまず、ウェットティッシュで相手の尻と指を拭いてから手を洗わせてください。「どうやら、この茶色いものを洗い落としたほうがいいみたいね。水を持ってくるから、そこにしばらく手をつけてて。ちゃんと溶けるまで待ったほうがよさそうよ。そろそろ石けんの出番かな。ほら、もとのきれいな手にもどった!」

この問題が続くようなら、医師に相談して、便を柔らかくする薬や食物繊維のサプリメントを摂るか、水分の摂取量を増やすなどの療法を試しましょう。また、排泄を妨げる痔核がないかどうかも、調べましょう。

〔アドバイス〕 ペーパーホルダーをうまく探せない、あるいは使えない、という場合は、自立式のペーパータオルホルダーを棚の上か便器のすぐ横の床に置いて、それにトイレットペーパーを取りつけましょう。大きいので、目にはいりやすいはずです。また、液体石けんには慣れていないでしょうから、流しにはふつうの固形石けんを置くようにしてください。

55. 入浴

あなたやほかの介護者への依存度が高まるにつれて、おばあさんは自己決定力を失ったように感じます。けれども、まだいくつか、見かけだけでも決定権があるように感じられる作業があります。入浴、食事、着替えといったことです。たとえば、あなたはおばあさんを風呂に入れ、髪を洗い、乾かす作業がとてもうまくなったとします。何もかもうまくいっていたのに、ある日、風呂の時間になったとたん、おばあさんが怒りを爆発させて罵りはじめます。こうした状況では、どんな対応がベストでしょう? 無理やり風呂に連れていく前に、こう自問してみましょう。

  • どうしても、きょう風呂にはいる必要があるか。
  • 以前は、どのくらい頻繁に風呂にはいっていたのか。

たいていの人は毎日風呂にはいるかシャワーを浴びるかしますが、おばあさんは必要なときしか入浴しない時代を生きてきました。最近は子ども時代にもどることが多くなったので、毎日ではなく、週に一、二度の入浴でOKとしたほうがいいかもしれません。あるいは、おばあさんから聞いた子ども時代の話をうまく使って、入浴に対して前向きな気持ちにさせるのもいいでしょう。たとえば、こんなふうに。「わたしが小さいころ、おばあちゃんはよく話してくれたよね、昔は大きなブリキの浴槽を使っていて、湯もコンロで沸かさなくちゃいけなかったって。すごく大変だから、週に一回しか風呂にはいれなかったんだよね。いまは蛇口からお湯が出てくるなんて、幸せよね」

おばあさんは、入浴に関する昔の習慣を強く持ちつづけているかもしれません。たとえば、いつも土曜日の朝に入浴していたなら、なるべく朝、入浴させるようにしたほうがいいでしょう。そうすれば、気分が落ちつくはずです。

入浴やシャワーの方法を忘れているかもしれません。その場合、風呂にはいるかと訊ねても、わけのわからない恐ろしい手続きを繰り返したくなくて、最初はかたくなに拒むはずです。いやだと拒まれたら、やりかたを変えてみましょう。

訊ねるのではなく、こんなふうに話を持っていくのです。

「おばあちゃん、手を貸すから立ちあがって」

「どうして?」

「来れば、教えてあげる」

ためらうようなら、何か関係ないことを話しつつ、椅子から立たせましょう。そのまま話しつづけて、さりげなく風呂へ誘導してください。着いたら、こう言います。「きのう買い物に行ったとき、おばあちゃんが新しいシャンプーを見つけて、使ってみたいと言ってたでしょう。いま、シャワーの湯を出すから、これで髪を洗ってみて。シャワーのお手伝いをするわよ」

「シャワーなんか浴びなくていいの! わたしは汚くないんだから!」などと返されるかもしれません。そんなときは、こう言いましょう。「もちろん、汚くないってことはわかってるわ。でも、きょうは土曜日よ、いつも土曜はシャワーの日って自分で決めてたでしょう。ほら! シャンプーの匂い、かいでみて。きっと髪の毛もいい匂いになるはずよ」

一歩一歩シャワーのもとへ導いて、椅子に座らせましょう。それから、お湯を出し、流れを体で感じてもらいながら、心地よい温度になるよう調節します。動作のひとつひとつを辛抱強く、ほがらかに誘導してください。できるだけひとりでするよう励ますことも、忘れずに。再び服を着たあとは、「さっぱりして髪がいい匂いになったね」と褒めましょう。そして入浴が成功したささやかなお祝いとして、こう提案します。「これから、お茶とお菓子にするってのはどう?」

気持ちが和らぐよう、親しく話しかけてください。くつろいだ雰囲気を作ることで、入浴は楽しいという認識を刻みつけるのです。心地よい気分と関連づけて日課を守るようにすれば、信頼を築き、将来のトラブルを最小限に抑えることができます。

石けん、シャンプー、タオルを何種類か用意しておいて、ときには新しいシャンプーや石けんを買いに一緒に出かけましょう。おばあさんに自分で選んでもらえれば、あとで心からその趣味のよさを褒めることができます。

56. 着替え

おかあさんにはできるだけ長くひとりで着替えをしてほしいですが、きちんとできるよう目を光らせたほうがいいでしょう。洋服の前後や、靴の左右を教える必要があるかもしれません。その場合、〝左〟と〝右〟の区別がつかないようなら、代わりに〝こっち〟と〝あっち〟を使いましょう。「この靴はこっちの足よ」(左足を軽く触って)「それから、もう片方はあっちの足。ほら、これで外を歩けるね!」

洋服選びをいまも自分でしている場合、きのう着たのと同じ服を選んでしまうかもしれません。それも、ただクローゼットのいちばん前にかかっていたから、あるいは好きな服だから、という理由で。同じ服を選ばせないためには、おかあさんが部屋にいないときクローゼットの中身をあらためて、しょっちゅう着る服を翌朝手に取ることができないよう取り除いてください。うまくいかず、同じ服に手を伸ばそうとしたときは、ほかの服を勧めて注意をそらしましょう。「この青い服はどうかしら。おかあさんは青がすごく似あうもの。顔色がよく見えるわよ」

たとえば友人の家に昼食に招かれて、おかあさんが部屋で出かける用意をしているとします。四、五分たったところで、あなたはようすを見に行きました。おかあさんはにっこり笑って「もう終わるわ!」と言います。見れば、スラックスの上にスカートを三枚はいて、スカーフも二枚つけているではありませんか。

まずは深呼吸をして、こう言いましょう。「まあ、すてき、すごく独創的な服装ね。でも、きょうはちょっと暑いから、そんなに着こんでたら蒸し焼きになっちゃうよ。一枚だけにしたほうがいいんじゃない? わたしはその花柄のスカートが好き。ブラウスとよく合うもの。さあ、手伝わせてね」

着替えは、混乱を生じやすい作業です。パンティには三つの穴があって、おかあさんはどの穴に足を入れていいやらわかりません。ドレスにいたっては悪夢そのもの。たちまちスカートに絡まって身動きが取れなくなります。手を貸す必要があるでしょう。その場合、おかあさんが自尊心を保てるよう、似たようなあなたの体験を話してください。

下着はかわいらしくて、はき心地がよく、少し大きめのサイズのものを選びます。ふだんはストッキングではなく靴下をはかせるようにして、どうしても必要な場合は、血行を妨げないような、Lサイズでゆるめの膝丈ストッキングを求めましょう。

ブラジャーの代用になる下着を選びましょう。タートルネックをいやがるようなら、ボートネック(訳注 横に広いゆるやかな線を描く、浅い船底型の襟ぐり)か、クルーネック(訳注 丸首)、カウルネック(訳注 ドレープのある襟ぐり)にします。公衆の面前でしょっちゅう服を脱ぐ場合は、背中にボタンかファスナーのある服を着せます。また、車に着替えを用意しておきましょう。パンツ、セーター、上着、替えのパッドなどです。


化粧 あなたはおかあさんの入浴や歯磨きを手伝い、髪をとかし、ひそかに着替えに目を光らせています。おかあさんはいまも自分で化粧をしたがりますが、ときとして奇妙な結果を生じます。たとえば、お気に入りのまっ赤な口紅を、唇だけでなく、あごや頬にも塗りたくるとか。けれども、鏡をのぞいて満足そうにしているので、あなたはそれでよしとします。

自宅なら問題はありませんが、外出したとき、知らない人からぎょっとした視線を向けられることもあります。あなたは、そうしたけげんな表情に取りあわないようにしていますが、ある日、教会であまりにじろじろ見られるので、おかあさんがうろたえて、居心地悪くなります。

そこで翌日、ふたりで地元のデパートに化粧品を見に行きます。スカーフやハンドバッグにおかあさんの注意をそらせておいて、店員とすばやく話をつけます。そして、おかあさんが〝化粧〟の指導を受けるために座ったら、ほとんど色のないリップグロスを強く勧めてもらいます。店員はそれが最新ファッションだと主張し、あなたも、それをつけたおかあさんがすごくきれいだと褒めるのです。帰宅したら、まっ赤な口紅は捨てましょう。リップグロスなら、どこに塗ろうとほとんど目立ちません。あなたもおかあさんの前では色のないグロスをつけるようにして、赤い口紅は夜の外出時のためにとっておきましょう。

ひげ剃り おとうさんはマッチョを気取って、折りたたみ式の西洋かみそりをずっと使ってきましたが、もはや安全に使えなくなりました。あなたはひげを生やすほうがすごく男らしいと説得しますが、むさくるしく見えるのは否めません。安全かみそりを勧めても拒まれますし、それですら怪我をするのではないかと心配です。こんな場合は、おとうさんかあなた自身の男友だちに頼んで、〝新型の〟電気かみそりを勧めてもらいましょう。

おとうさんは最初は拒むかもしれませんが、友人が文句なしに男らしいと保証すれば、説得されるはずです。そうなれば、おとうさんは何時間でも好きなようにひげを剃れます。ときどき音がうるさくてたまらなくなるでしょうが、おとうさんがこざっぱりできて、耳を削ぎ落とす心配もないのですから、試してみる価値はあります。

57. ファスナー

ファスナーは、アルツハイマー患者に服を着せるとき大いに重宝します。手早く、簡単に扱えるからです。たとえば、どうにも望ましくない場面でおかあさんが服を脱ぎたがるため、手を焼いているとしましょう。

その場合、背中にファスナーのついた特殊な服を作って着させれば、脱ごうとしてもうまく脱げません。まずは、ブラウスとパンツをウエスト部分で縫いあわせます。次に、前を縫いあわせて、背中に長いファスナーを取りつけましょう。すると、一見〝ふつう〟でありながら、自分では脱げない服ができあがります。

58. キッチン

たいていの家庭では、キッチンは家族のつどいの場なので、あなたもそこで多くの時間を過ごしているはずです。キッチンで日常行なう作業にアルツハイマー患者も安全に参加できるようになれば、患者をキッチン以外のどこかにひとりで置き去りにしなくてもすみます。

おとうさんは、あなたが物心ついてからというもの、キッチンに近づいたためしがありません。それどころか、キッチンの場所さえはっきり覚えていない状態なので、料理の手伝いを頼まれたら変に思うはずです。けれども、最近とみに食が進まないようすなのを見て、あなたは、もう一度食べ物に興味を持たせるには、手伝ってもらうのもひとつの方法ではないかと考えます。

まずは、相手をキッチンのスツールに座らせて、料理をするところを見てもらいましょう。と同時に、作業の流れを説明します。そして、少しずつおとうさんを参加させるのです。たとえば、こんなふうに。「おとうさん、このバナナを切ってくれない? 五ミリくらいのうす切りで」

対応は臨機応変に。使う道具は必ず安全なものを用意しましょう。おとうさんのペースを尊重して、徐々に料理になじんでいけるようにします。いちばんの目的はおとうさんが楽しむことですが、ひょっとしたら、食習慣も改善されるかもしれません。


おかあさんはかつて、舌の肥えた料理上手な人として知られていました。あなたはその腕前に萎縮し、なるべくキッチンから遠ざかっていたので、最高の技量をすべて授かるところまではいきませんでした。それでも、まずまずの腕まで上達し、グルメ誌を購読してもいます。

おかあさんは、まだひとり暮らしをしていたころに、キッチンの火やナイフで何度か大惨事を招きかけました。それもあって、いまはあなたと暮らしているわけですが、当然ながら、ストレスを感じています。危ない目に遭った記憶がないので、あなたが単なるいじわるや嫉妬心から自分をキッチンに入れてくれないと考えているのです。

かといって、料理中におかあさんがそばにいたら、しょっちゅう意見を挟まれていらいらさせられるのは目に見えています。あなたのやることなすことすべて〝おかあさん流〟からはずれているのに、おかあさんのほうは、それが唯一の正しいやりかただと思っているのですから。いらいらが爆発する前に、安全に料理に参加させる方法を考えましょう。まずは、サラダ係をお願いして、柔らかな果物や野菜を刻むとか、バターを混ぜるなどしてもらいます。何より大切なのは、意見やアドバイスを求めること。返ってくる説明がたとえ支離滅裂でわけがわからなくても、根気強く耳を傾けましょう。結局はあなた流で作業を進めるはめになるでしょうが、おかあさんは指示に従ってもらえたと思って気分をよくするはずです。

たとえば、マッシュルームスープの缶をあけながら、こう言います。「おかあさんがいつも作ってくれたローストチキンのソースは、すごくおいしかったね。今夜はあれをつくりたいんだけど。ええと……まずはスープストックを温めるのよね。こんな感じでいいかしら?」

すると、次のような答が返ってきます。「正しい方法でやらなきゃだめ。一、二、三、四。みんなふたつだと思ってるけどね。そう、そのとおり」

なんの話かさっぱりわからなくても、ちゃんと理解したようにふるまい、鍋に調味料を入れるふりをします。「次は、生ハーブを加えるのよね。ええと……タイムと、ローズマリーと、おかあさん秘伝の材料……もう一度聞くけど、なんだったかしら?」

「八、九、一〇、一一、一二……」

「たしかナツメグひとつまみよね? 一二ですって? そうねえ。多すぎる気がするけど。どう思う? ふたつまみでいいんじゃないかしら。ひとつ、ふたつ。ほうら、おかあさんの極上ソースそっくりの匂いがしてきた。おかあさんは昔から料理が上手だったもの、いろいろ教えてもらわないとね。手伝ってくれてありがとう」

おかあさんは近ごろ数を数えるのが好きなので、一緒に数えれば注意を引くことができます。また、褒めことばをひとつ混ぜるだけで、機嫌がよくなります。

あれこれ触りたがるようなら、おかあさんの使う食器や触りたがる台所用品をべつにして、ひとつの引き出しにまとめておきます。危険な道具をしまう棚には、チャイルドロックを取りつけましょう。

また、独自のレシピ集を作るのを手伝って、料理への関心を保つのもひとつの方法です。自分で料理ができなくても、料理雑誌を読んで楽しむことはできます。レシピを切り抜いてスクラップブックに貼りつけるよう勧めるのもいいでしょう。そうすれば、必要に応じて、おかあさんの注意をそらせます。

59. 食事

食事の時間は、アルツハイマー患者にとって、最高の時にもなれば、最悪の時にもなります。患者の多くは食事を小分けして一日数回摂る必要がありますが、ふつうに三回の食事でだいじょうぶな人もいます。人によっては、食事中ふいに、並べられた食べ物の区別がつかなくなったり、食器の使いかたを失念したりします。たいていの場合、認知症がかなり進んだ人でもはっきりと好ききらいがあって、選択の余地を与えられると喜びます。たとえば、ハロルドはアルツハイマー病の末期で、ことばのコミュニケーションはできませんが、選択肢をふたつ示せば、うなずくことで自分の好みを伝えられます。

ハロルドにとって、食事は一日で最も輝かしい時間です。まず、ナプキンを念入りに喉もとに挟みこみます(結果はどうあれ、少なくとも、そう努めているのは確かです)。なにしろ母親が、マナーにひどくうるさい人でしたから。彼はたいてい、うまく食事を終えられますが、ときには混乱することもあって、皿とフォーク類をじっと見つめてばかりいます。どうやって料理を口に運べばいいのかわからないのです。その場合は、フォークを手に載せて、握らせましょう。「ハロルド、あなたはこの料理、好きでしょう。すごくおいしそうじゃないの。ほら、このフォークを使って食べてね」

一度にひとつの食器しか置かないようにすれば、混乱を減らせます。あらかじめ食べ物をひと口サイズに切って、食欲をそそるように盛りつけましょう。また、飲み物が混乱を招くことがあります。フォークでそれを〝食べよう〟としたり、料理にかけたりするのです。そのときは、さりげなく飲み物を取りあげてください。「あなたが食べているあいだ、飲み物を持たせてくれるかしら」と言いながら。そして皿の食べ物を取り替えて、飲み物はべつにしておくか、飲んでいるあいだフォークをよけておくのです。

食べかたのちがう料理を一度に出さないようにしましょう。フォークで食べる物ならそれだけ、手で食べる物ならそれだけにします。サンドイッチをどう持てばいいのか思い出せないなら、フォークで食べられるよう切り分けてください。レストランの場合、ウェイターに頼んで、サンドイッチの中身をべつの料理として皿に載せてもらうといいでしょう。

やがて、どうしても食器がうまく使えなくなるときが来ます。そうしたら、手で食べるものだけにかぎりましょう。面倒くさいと思うかもしれませんが、考えかたを変えれば、手で食べる栄養満点の料理を創り出すのも楽しいはずです。温野菜の取り合わせ、ひと口サイズのチキン料理、カットフルーツなどなど……。


おかあさんはいつも、驚くほど自制していました。食事もごくわずかしか食べなかったので、あなたは、どうしてその遺伝子を受け継がなかったのかと嘆いたものです。けれど、一緒に暮らしてみると、あまりに食が細いことが気になってきました。おかあさんは料理をほんの少しだけ口に入れて、いつまでも嚙んでいます。

自分の食事を終えるたびに、あなたは決まり文句のように「もう食べおわった?」と訊ね、いつも「ええ」という返事をもらっていました。ところが、ある夜、何気なく質問を変えて、「おかあさん、まだ食べおわってないよね?」と訊くと、やはり「ええ」と返ってくるではないですか。

皿の料理は、いつまでもなくならないように思えました。そして一時間後にようやく、テーブルを片づけることができました。あなたははっと気づきます。たぶん、おかあさんは食べるのがすごく遅くて、昔はほかの人が食べおわった時点で、まだお腹がいっぱいではなくても食べるのをやめていたのではないか、と。

あなたはいま、「もう食べおわった?」ではなく、「まだ食べおわってないよね?」

と訊いて、食べる時間をじゅうぶん与えるようにしています。少しずつおかあさん

の体重がもどってきたので、余分な時間をかけたかいがあった、と思いながら。

60. 運動

精神と肉体の健康に、運動は欠かせません。それはアルツハイマー患者でも同じです。おじいさんはもっと体を動かす必要があります。両腕を頭上に挙げさせて、前後に振らせるといいでしょう。また、車椅子生活でないかぎり、安全に気をつけながら、きびきびと歩かせてください。

あなたなりに、おじいさん向けの運動を作り出すこともできます。たとえば、裏庭の芝の上や海岸の波打ちぎわを裸足で歩くとか。両腕を高く上げて、大声でいろいろな鳴きまねをするとか(ブーブー、モー、カァカァー)。ライオンの吠え声の比べっこをするとか。大声を出せば気持ちがいいし、いい運動にもなります。知り合いに子どもを連れてきてもらうのもいいでしょう。おとなは自意識が強すぎるので、奔放かつあけっ広げにふるまうには練習が必要です。


ダンス おかあさんの身のこなしがそれなりに軽ければ、またダンスを始めるのもひとつの方法です。最後にダンスをしたのはずいぶん前なので、最初はゆっくり動いて、バランスを失わないよう注意し、ターンやスピンは避けましょう。まずは、あなたがダンスフロアの一か所に立って、腕と上半身を音楽に合わせて動かします。おかあさんが加わったら、その動きに同調しましょう。気が進まないようすであれば、手を軽く握って、音楽に合わせて動かしてあげます。長いあいだダンスをしていない場合、勘を取りもどすまでしばらくかかります。肩の力を抜いて、自然に体を動かしつづけましょう。かける音楽は、おかあさんの好きなものなら、なんでもかまいません。

たとえば、お気に入りのオペラ、『蝶々夫人』をかけたとしましょう。この曲を聴くたびに、おかあさんの気持ちは高揚します。笑顔になり、目が輝いて、音楽に合わせて体が揺れはじめます。すかさず椅子を動かしておかあさんと向きあい、同じように腕を動かしましょう。はじめは、ふたりとも少し照れるでしょうが、じきに上半身でバレエを踊りはじめます。とても楽しくて、ふたりとも曲が終わるころには、息切れしつつも声をあげて笑っています。おかあさんのことばが不自由であるか、まったく話せない場合、こうして体を動かすことは、貴重な自己表現の機会にもなります。


水泳 あなたのいちばん好きな運動は水泳なので、おじいさんが引っ越してきてからは、一緒に地元のプールに出かけています。おじいさんも泳ぎが達者です――少なくとも、以前は。ところが最近、得意の型で泳いでいるさなかに、ふっと動きを止めることがあります。まるで、体が基本的な動きを忘れたかのように。おじいさんはその変化に気づいておらず、あなたが指摘すると、ひどく動揺しました。

命にかかわる事故が起こる前に、水中エアロビクスを採り入れましょう。プールの端の浅い場所でできる運動のことです。また、つねに体が浮くように、スイムベストをつけさせてください。


散歩 おとうさんはあなたとの散歩を楽しみにしています。まだ視力が衰えていないなら、時間をゆっくりとって、途中のこまごまとした物を観察するといいでしょう。つぼみをつけたバラの茂み、ペンキを塗り替えたばかりの壁、蟻の巣……。あとからふたりの冒険を思い返し、語りあってください。「きょうはすごく天気がよくて、たくさん歩いたね。近所をぐるっと一周しちゃったよ。すごく楽しかった。いい散歩だったね?」

「そうだな」

「近所の庭であのきれいな花を見たとき、どうしても名前を思い出せなくて、そうしたらおとうさんは、植物園に行って教えてもらおうって言ったよね。よかったら、今週末にでも行こうよ。楽しみだな」


座ってやる運動 おばあさんには運動が必要ですが、もはや散歩にいけるほどうまく体を動かせません。代わりに、背もたれがまっすぐな椅子に互いに向きあって座り、座位運動をしましょう。あとで、その運動を共同ケアのグループに紹介することもできます。大勢でやれば、もっと楽しくなるはずです。

おばあさんの手本になるよう、あなたも一緒に運動をしましょう。下記の動きを、それぞれ三から五回ずつ行ないます。ゆっくりと慎重に、穏やかな動きを心がけてください。体を曲げて起こすときは、とくにそうです。急な動きは避け、おばあさんが痛がる動きは抜かしましょう。肉体的な障害がある場合は、あらかじめ医師か理学療法士に、次の動きをチェックしてもらってください。

  • 両腕を上げて、息を吸う。両腕を下げて、息を吐く。
  • 両腕を前に伸ばし、手のひらを上に向けてから、両腕を下げる。
  • 両脚の外側をなぞるようにして体を曲げていき、つま先に触る。
  • あごが胸につくくらいうつむいて、今度は天井を向く。
  • 両肩を耳につけるように上げる。
  • 体を前にかがめたあと、起こしながらボートを漕ぐまねをする。「ロウ、ロウ、ロウ、ユアボート(漕げ、漕げ、ボート)」の歌を歌いながら。
  • 片方の腕を前に伸ばしてから、反対側の肩に触る。もう一方の腕も同じようにする。
  • 両腕を上げて、息を吸う。両腕を下げて、息を吐く。
  • 両腕を前に伸ばし、はさみのように交互に上下させる。
  • 片脚をゆっくり上げて伸ばし、もう片方も同じようにする。
  • 片手を天井に向かって伸ばし、もう片方も同じようにする。
  • かかとを床につけたまま、つま先を上げて、三つ数える。
  • つま先を床につけたまま、かかとを上げて、三つ数える。
  • 両腕を上げて、息を吸う。両腕を下げて、息を吐く。
  • 両腕を前に伸ばし、こぶしを握って、開く。
  • 腕を伸ばしたまま、指を小刻みに動かす。
  • 両脚を前に伸ばし、できるだけ遠くの床につま先をつけてから、膝を曲げる。
  • 両腕を前に伸ばし、手首を下に曲げて、今度は上に曲げる。
  • 腕を伸ばしたまま、手首を回す。
  • 伸ばした両腕を振る。
  • 片方の膝を胸につくように上げ、次に反対側も同じようにする。
  • 両腕を上げて、息を吸う。両腕を下げて、息を吐く。
  • 両手を肩に当てて、肘を上げる。もとの位置にもどしてから、胸の前で両肘をくっつける。
  • 両手を肩に当てて、腕を回す。次に、逆回りにする。
  • 手を組みあわせて、頭上に持っていく。それから前に下げていき、切りこむように両膝のあいだに入れる。
  • 両肩を回す。
  • 両腕を上げて、息を吸う。両腕を下げて、息を吐く。
  • 自分の体をかたく抱きしめる。

61. 歌

家族はだれも音楽がとくに好きというわけではないので、おかあさんがラジオの〝懐かしの名曲〟特集に合わせて歌いだしたとき、あなたはとてもびっくりしました。

驚いたことに、おかあさんは歌詞をほとんど覚えていて、調子はずれの大声を張りあげ、楽しそうに歌いつづけています。

勇気を出して、一緒にハミングしましょう。音程を気にせず大声で昔のスタンダードを歌うには、車のなかがうってつけです。しっぽをドアにはさまれた猫みたいな歌声であろうが、かまいはしません。ともに楽しいひとときを過ごし、笑いあえれば、それでいいのです。

おかあさんのことばがかなり不自由な場合は、孫たちに一緒に歌うよう勧めれば、家族全員に特別な結びつきが生まれます。それに、子どもはたいてい、あるがままの姿を受け入れて、多少の欠点には目をつぶってくれるものです。

地元の図書館には、歌の本、テープ、CDがたくさん置いてあるはずです。また、店にも、みんなで歌うのにふさわしい、懐かしの名曲のテープやCDが売られています。

62. ゲーム

どんなに年を取ってもゲームはできますし、だれにでも好きなゲームがあります。ビンゴ、ブリッジ、カナスタ(訳注 ふた組のトランプとジョーカー四枚を使って、四人で遊ぶカードゲーム)、ジャックス(訳注 小さなゴムボールとジャックストーンと呼ばれる小片を使う遊び)、馬蹄投げ、輪投げ、バドミントン、卓球、ロバの尻尾つけ(訳注 目隠しをされた人が、ロバの絵に尻尾を貼りつけるゲーム)……。

おかあさんにとって、知的な刺激はいまもきわめて大切です。クロスワードパズルなどのことばゲームが好きなら、スーパーの雑誌コーナーでゲーム本を探してください。能力別になっているので、適切なレベル、すなわち挑みがいはあるけれど圧倒されない程度のレベルを選びましょう。ごく簡単なレベルですらむずかしくなったら、あなたの〝手助け〟をしてもらいます。


カードゲーム 夫がもうカードゲームをやれない場合、お気に入りのゲームの簡易版を作りましょう。ブリッジが好きだったのなら、その名残がかすかにある新しい〝ゲーム〟を作るのです。カードを数枚配って、スートに合わせてカードを交互に出します。どちらがすばやくカードを出せるかを競って。あるいは、あなたがついていれば、ソリテアもできるはずです。

手札を見せたままポーカーをするのもひとつの方法です。まず、山から五枚カードを引いて、表にしてテーブルに並べます。それからふたりで、どのカードを残してどれを捨てるか決めます。ポーカーらしい手ができるまで、何度でも繰り返しましょう。

夫が楽しめるかぎりは、競技ゲームをしてもだいじょうぶです。挫折感や苛立ちを覚えはじめたら、競争のない簡単なゲームに切り替えるか、中断してしばらくべつのことをしましょう。


戸外でのゲーム 戸外では、ただのボール投げからクロッケーまで、さまざまな遊びが行なえます。柔らかくて、投げるのも受けるのも簡単なビーチボールが、お勧めです。地元のおもちゃ屋に行って、さまざまな大きさのボールを買いましょう(柔らかい素材のものが望ましいでしょう)。子ども向けの各種ローンゲームも、あなたが真剣に相手をすれば、幼稚には感じないはずです。輪投げ、蹄鉄投げ、ローンボーリングなどを試してみましょう。安全上の理由から、用具はすべてプラスチック製を選んでください。

63. ガーデニング

庭仕事の好きな認知症の人にとって、ガーデニングは、リラックスできる実りの多い作業です。肉体的な制約がある場合は、座ったまま草むしりや土いじりができる椅子を買いましょう。車椅子なら、手の届く高さにプランターを設置します。

あなたが子どものころ、家のまわりの野菜畑やハーブ畑や花壇をおかあさんが丹精を込めて世話していました。いま、そのおかあさんとふたり暮らしで、外出や料理、ときには読書も一緒にしていますが、ときには自分の仕事にかまけて、長時間ひとりで放っておくこともあります。

あなたが仕事をしているとき、おかあさんはその邪魔にならないよう、外出して家のまわりをぶらついています。おかあさん専用の〝オフィス〟も設けてみましたが、それには興味を示さないので、あなたはどうしたものかと考えます。ある朝、きょうはどこへ行きたいか訊ねてみると、こんな答が返ってきました。「園芸店よ。そろそろ春の種蒔きの季節だもの」そうそう! おかあさんは園芸が大好きだったじゃないの!

まずはプランターひとつから始めましょう。種、肥料、手袋、鉢植え用の土、移植ごて、じょうろをおかあさんに選んでもらいます。ほどなくプランターの数が増え、アパートがやや雑然としますが、最初の芽が出てきたときのおかあさんの笑顔を見たら、そのくらいなんでもないと思えるはずです。

運よく庭つきの家に住んでいるなら、野菜か花を植える小さなスペースを設けましょう。たぶん、あなたも手を貸さなくてはいけないでしょうが、のちに、自家栽培の野菜で特別料理を楽しめることを思えば、汗を流す価値はあります。庭の花で花束を作るのも楽しいでしょう。

64. 映画

画面も音響も大きい映画館で映画を鑑賞すれば、なんとなく特別な気分を味わえます。おかあさんはストーリーを追うことはできませんが、驚くなかれ、映像の全体的な〝質〟には反応できます。登場人物の描写や俳優の演技がしっかりしていれば、たとえ筋立てを思い出せなくても、映画を楽しむことはできるのです。わたしたちも、観た映画の筋立てをほとんど忘れてしまいます。おかあさんの場合は、忘れるのがかなり早い――たとえば、映画館を出た瞬間に忘れる――だけのことです。

映画鑑賞はふたりとも大好きだったので、あなたはおかあさんと住みはじめてから、一緒に行けないのを残念に思っていました。ある日の午後、おかあさんの面倒をみてくれる人が見つからず、一緒に映画に行くことになりました。とはいえ、おかあさんはたぶんストーリーを追えないだろうし、映画そのものも楽しめない恐れがあります。しかも、このごろ人混みに怯えるようになったので、チケットを買う段になっても、あなたはまだ不安を感じていました。

ところが、映画館のロビーに足を踏み入れたとたん、おかあさんはわくわくした表情を浮かべます。トイレに行ったあとで、あなたはがらんとした劇場にはいり、自分たちの席へ向かいます。そして、予告編を観て混乱するおかあさんに、観たい映画はまだ始まっていないのだと教えます。

やっと映画が始まったあとで、さりげなくおかあさんのようすをうかがうと、嬉しいことに、画面に見入っているではありませんか。映画を楽しんでいるのです! 観たあとで、ストーリーについて話そうとしましたが、あなたの言うことはさっぱり理解できないようです。けれども、映画に行って楽しかったか、また行きたいかと訊ねると、おかあさんは熱心にうなずきました。

自宅では気を散らすものが多いし、テレビ画面も小さいので、なかなか映画を楽しめないかもしれません。いっぽう、映画館は、完全に画面に集中してわくわくできる魔法の空間なのです。出かけるときは、自分が観たい映画を選びましょう。あなたが楽しめば、おかあさんも同じように楽しい気分になれるはずです。

65. 音楽

音楽は、喜びや安心感や前向きの気持ちをもたらすこともあれば、苛立ちや不安を掻きたてることもあります。わたしたちの人生に、きわめて大きな影響力をおよぼしているのです。音楽を聴き取る力は、最初に形成される感覚だと言われていて、どうやらまだ子宮のなかいる時分に生じ、最後の最後まで消えないようです。夫が人生最後の数日間を迎えたときは、それを思い出してください。夫の大好きな音楽を流し、安らかな気分にしてあげましょう。

音楽があれば、日常生活もずっと豊かになります。音楽の種類はじつに幅広く、気持ちをリラックスさせたり、逆に高揚させたりしてくれます。夫が動揺している場合は、こうした曲のテープやCDをかけておいて、悩みの種を探るといいでしょう。柔らかな美しい音色の曲は、就寝前に気持ちを落ち着けてくれるし、懐かしのビッグバンドの曲は、落ちこんでいるときに気持ちを高めてくれます。

あなたは、小さなディナーパーティに友人を数名招きました。リサおばさんと暮らすようになってから、はじめて主催するフォーマルな行事です。おばさんは午後じゅうずっと、キッチンで本人なりに手伝ってくれましたが、あなたはふだんひとりで料理しているため、やってもらうことを探すだけでかなりの時間を取られてしまいました。

そして数時間後、ディナーの準備は予定より遅れ、あなたは苛立ち、リサおばさんはおろおろしています。あなたはできるだけ穏やかな口調で、料理はすべて任せてほしいと告げますが、おばさんはそれを拒絶と受け止めます。自分が役立たずに思えて、いまにも泣きそうになっています。

キッチンでやってもらえる作業がなくなったので、あなたはリサおばさんをダイニングルームに連れ出し、完璧なテーブルセッティングができるのはおばさんだけよ、と言い聞かせます。おばさんは不満そうにぶつぶつ言います。「わたしの料理が気に入らないんでしょう? あなたが小さなころ、食べ物を吐き出したことも覚えてるのよ。なのに、何ひとつまともにできないと言うのね? こんなところ、もうごめんだわ。あした家に帰るからね!」

痛烈に罵られても、できるだけ平静を保ちましょう。当然ながら、心中は穏やかではありませんが、言い争ってもしかたがありません。代わりに、今夜のために選んであったショパンのCDをかけて、キッチンにもどり、なおも怒りつづけるリサおばさんは放っておきます。

数分後、おばさんが静かになったのに気づいて、こっそりようすをうかがうと、おばさんはステレオの前の大きな安楽椅子に座っています。両目を閉じ、微笑を浮かべて。見るからに、幸せそうです。あなたは胸のなかでショパンたち音楽家にお礼を言い、にんにくを刻む作業にもどって、音楽の影響力がいかに大きいかを心にとどめます。


おとうさんは落ちこんで孤独を感じるようになりました。ときどき、妻が自分の帰りを待っているという錯覚を起こします。おかあさんが一五年前に亡くなったことをあなたが教えると、怒り出すか、部屋に籠もって何も食べなくなります。けれども、この痛ましい状況を〝治す〟方法が見つかりました。グレン・ミラーやデューク・エリントンなど、おとうさんの集めた懐かしの名曲を流し、しばらくそばに座って、おかあさんとの思い出話を聞いてあげるのです。ビッグバンドのあとは、ブラームスの優しい曲を流します。すると、就寝時間にはふたりとも気持ちがほぐれ、安らかにぐっすり眠れます。

66. 読書

友人のマギーはかつて大の読書家で、本をたくさん持っていることが自慢の種でした。そこであなたは、自宅にマギー専用の読書コーナーを設け、本棚に愛読書をずらり並べました。いまでもマギーは、しょっちゅう本を手にして、読書ランプの脇の、座り心地のいい大きな椅子に陣取っています。一ページめから先に進むことはめったにありませんが、それでもとても楽しそうです。あなたは自分の本を読み、マギーも彼女の本を〝読んで〟、ともに静かな読書タイムを過ごします。

ときには、この共通の体験をもっと広げたくなって、マギーに本を読んで聞かせます。熱を込めて読めば、なんでも面白がってもらえるはずです。新聞の場合、明るい記事の数は少ないですが、なるべく〝楽しいニュース〟を選んで読みましょう。あるいは、料理の本を声に出して読むのも、ひとつの方法です。何種類もの料理と、上等のワインと、濃厚なデザートからなる豪華ディナーを思い浮かべて、そんな食事にはまるっきり縁のない現状を笑い飛ばすのです。

マギーが考古学や歴史といった特定のテーマに関心を抱くようなら、地元の図書館を訪れ、それに沿った本を探すのもいいでしょう。マギーは本探しを楽しめるし、見つかった本を読み聞かせれば喜びます。ふたりで図書館を訪れたとき、マギーがある特定の本に興味を示したら、それを借りて、あとで一緒に読むといいでしょう。

67. 外出

外出は、大きな効果をもたらします。夫は出かけた場所をはっきり覚えていないでしょうが、帰宅後は若々しく、いつもより気持ちが穏やかに見えます。夕食時には、その日の〝できごと〟を話して聞かせましょう。一部を思い出して、話に加わるかもしれません。思い出せないとしても、ふたりで楽しんだあれこれに、おとなしく耳を傾けるはずです。

九歳か一〇歳のころ小学校の社会見学に出かけて以来、あなたは地元をあちこち見てまわっていませんでした。けれども最近は、夫とふたりで博物館、ギャラリー、図書館、公園などを訪れています。週一回は外へ出かけることを目標に、お気に入りの場所に足繁くかよっているのです。


ドライブ きょうは奥さんを図書館に連れていくはずでしたが、直前になって時間が足りないことに気づきました。けれども、奥さんがそわそわと落ち着かないようすなので、図書館の代わりに短いドライブに連れ出すことにします。「ねえ、ずっと家にこもってると、おかしくなりそうだよ。ちょっと外出したいな。きみはどう?一緒にドライブしない?」

遠くまで出かけなくても、じゅうぶん楽しめます。車で近所をゆっくりひと回りして、道すがら目にはいったものを話題にしましょう。草ぼうぼうで刈りこみの必要な芝生、大きな青い花や小さな黄色い花、かわいらしい仔犬、巡回中のごみ運搬車……。のんびりと気ままに、車を走らせます。奥さんは楽しそうにあれこれ話しています。何を話しているのかよくわからないかもしれませんが、進んで話に加わりましょう。ときには、奥さんに行く方向を決めさせます。車を道に出すとき、左右どちらへ向かうか聞いてみるのです。「さあ、どっちに行きたい?」

最初の大きな交差点が近づいたら、ふたたび訊ねます。「ねえ、あの信号から先はどうしようか? こっちの道と、あっちの道、どっちがいい? それとも、まっすぐ進む?」

同じ場所をぐるぐる回るはめになるかもしれませんが、それでもいいのです。少なくとも退屈はしませんし、奥さんも決定をくだすことで自主権を増したように感じます。彼女が楽しんでいるあいだは、この方法でドライブを続けましょう。たぶん、すぐに疲れたと言い出すはずです。帰宅後、きょうの外出について話すときは、心から楽しかったと伝えて、奥さんを褒めましょう。

たとえば、こんなふうに。「いやあ、すごい冒険だったね! きみが道を決めてくれたおかげで、すごくわくわくしたよ。楽しかったなあ。あることも知らなかった道を通れたし、きれいな花もたくさん見たし。そう言えば、うちの庭にも似たような花があったな。うちのほうがずっときれいだけど。きみは昔から花を育てるのが得意だよね」

奥さんを褒めるとき、ついでに、ともに送ってきた生活に触れると、喜ぶかもしれません。特定のできごとは思い出せないかもしれないので、「ねえ、覚えてる?」といった直接的な質問は避けましょう。物語を聞かせるように話すのです。

「花と言えば、きみと出会ったころ、こんなことがあったよね。チューリップを育てるのを〝手伝おう〟として、へまばかりやらかしてた。でも、きみはとても優しかった。ありがとうと言ってくれて、ぜんぜん腹を立てなかった。きみのみごとな花壇を台無しにしたのにね! チューリップを見るたびに、そのときのことが甦るよ。ぼくがいつも、しおれかけた草花を買って、死の縁から救い出しているのは知ってるだろう? あれは、きみのチューリップに対する償いのつもりだってこと、気づいてた?」


ギャラリー 友人のベティは昔から美術展が好きだったので、一緒に外出するときは地元の美術館やギャラリーをめぐります。とくにお気に入りのギャラリーができたら、スタッフにベティの認知症のことを話しておきましょう。次に訪れたとき、スタッフに顔見知りとして接してもらえれば、ベティは自分に鑑識眼があって尊重されているように感じます。

午前中なら、たいていはギャラリーを独占できるので、展示品について心ゆくまで語りあえます。また、館長に頼んで、過去の展覧会の案内状やビラをもらいましょう。あとでそれを使ってコラージュを作ってもいいし、ベティがそれをスクラップブックに貼りつけるかもしれません。


図書館 おかあさんはいまだに大の読書家のつもりでいますが、たいていは最初のページから先へ進まず、同じ文章を楽しそうに何度も繰り返し眺めています。それでも図書館に出かければ、充実した楽しい一日を過ごせるはずです。

おかあさんがガーデニング好きなら、きれいな花の図鑑を探し出しましょう。ただし、序文から先へ進まないかもしれないので、必ず写真のページを広げて見せてください。ともに思い出にふけるにも、いい機会です。おかあさんは庭での作業をあれこれ思い出すはずです。たとえ思い出せなくても、ふたりで空想の庭をこしらえてこまごまとした話を楽しむことはできます。

一緒に歌えそうな歌の本、工芸の入門書、声に出して読む詩集や短編集などを借りましょう。また、図書館の多くが、『ナショナル・ジオグラフィック』誌や全米放送協会の選んだ優れたビデオコレクションを所蔵しています。『名作劇場』や自然関係のドキュメンタリーなど、たくさんの番組が見られるはずです。また、ほとんどの図書館に、本の音読テープが置かれています。おかあさんがいまもストーリーを追えるなら、こうしたテープも楽しめるでしょう。


博物館 週に一回、高齢者の入場を無料にしてくれる地元の博物館が見つかりました。ありがたいことに、車椅子も利用できるため、おとうさんが疲れたらそれで館内を回れます。「わたしたち、ラッキーだったわね? この車椅子を使ってもいいんですって。そうね、ほんとうは必要ないのはわかってるけど、ここはとても広いし、見るものがたくさんあるのよ。これを使えば、歩きまわってエネルギーをむだ遣いせずにすむじゃない」

車椅子を押して、おとうさんがとくに興味を持ちそうな展示品のほうへ連れていきます。結局は、午後いっぱいかけて、ひとつの展示品しか見られないかもしれません。博物館では展示品をひとつ残らず見るべきだと思われがちなので、はじめのうちは、そうした固定観念にとらわれてそわそわするでしょう。けれども、あなたたちは心から楽しむために、そこにいるのです。ですから、おとうさんのしたいようにさせてあげてください。


ピクニック おにいさんのベンは、このごろよく、子ども時代に毎年家族で出かけたピクニックの話をします。当然ながら、思い出すのは楽しいことばかりです。おばあさんのポテトサラダ、エラおばさんのピーチ・パイ、ソフトボールの試合……。うまい具合に、蟻や蝿に悩まされたこと、突然の土砂降りで雨宿りの場所を求めて走ったことは忘れています。

ベンにとってピクニックはいまも最高の外出なので、あなたたちふたりはピクニックの計画を長々と練っては楽しんでいます。ドライブに出かけたおりには、絶好のピクニック候補地を探します。

ある美しい夏の日、あなたはピクニック用のバスケットに、チェック柄のテーブルクロスと色鮮やかなプラスチックの皿を二枚詰めます。それ以外に詰めるのは、ジュースひと瓶と、クラッカー数枚だけ。というのも、ピクニックを短く愉快なものにしたいからです。例によって虫や風に悩まされるのをべつにしても、ピクニック用ベンチはたいてい座りごこちが悪く、高齢者の尻には硬すぎます。

ピクニックは、往々にして、実際に出かけるより計画を立てるほうがずっと楽しいものです。けれども、一〇分間の短いピクニックが、のちに何時間ぶんもの思い出を与えてくれるはずです。

あとからピクニックの場所を車で通り過ぎるときは、楽しい記憶をこんなふうに呼び起こしましょう。「ほら、ベン。あの大きな木の陰に、お気に入りのピクニック用ベンチがあるよ。あそこは楽しかったね。近いうちに、またピクニックに出かけない?」

次のピクニックは来年の夏になるかもしれませんが、その間、あれこれ計画することはできます。寒くて外に出られない冬の日は、空想上のピクニックを楽しむのもいいでしょう。できるだけ念入りに〝計画〟を立てて、ベンにも案を出すよう促します。こうやって好きなことについて話すうちに、楽しい思い出が甦る場合もあるので、テープレコーダーを手元に置いておきましょう。


ショッピング おとうさんはすぐに疲れて動けなくなってしまうので、あなたはいつも、できるだけ簡単にショッピングをすませています。いまはもう、おとうさんにペースを合わせられるようになったし、ゆったりした生活を心から楽しんでいます。また、金物屋を訪れる楽しさなど知りもしませんでしたが、おとうさんに案内してもらって、おびただしい数のボルト、釘、工具に関する詳しい説明を受けました。

自宅では頭が混乱しがちでも、自分の本領であるこの場所でなら、おとうさんは昔の自信を取りもどせます。行きつけの場所で昔のようにしっかりした口調で話すのを、あなたは喜んで聞いています。ときには、あなたたちが店を出る最後の〝客〟になることもあるでしょう。

金物屋を三、四軒回れば、何も買わずに見て歩くだけの客でも歓迎してくれる従業員や店長が見つかるはずです。わざわざ時間を割いておとうさんと〝金物談義〟をしてくれる従業員もいるでしょうし、店長が期限切れのカタログをくれるかもしれません。


あなたと友人のスージーは、長年、一緒にショッピングセンターを訪れては、ほぼ一日じゅうウィンドウショッピングをして過ごしています。まず行きつけの店を数軒回って、食堂街でランチにするのが、スージーのお気に入りのやりかたです。ふたりともこの外出が楽しみで、衣類など、食品以外の買い物は、ほとんどこのショッピングセンターですませています。

スージーはあなたの服選びを手伝うのがとくに好きですが、ときおり、ちっとも欲しくないものを買わせたがります。そういうときは、レジで、自分の選んだものと交換してもらいましょう。ただし、友人を傷つけないように、相手が見ていないときにします。こうしてスージーに服選びを手伝わせれば、彼女もあなたに手伝われることに抵抗がなくなるはずです。

地元のスーパーには、買い物かごつきの車椅子が常備されているところもあります。ちょっとした買い物程度なら、このかごでじゅうぶん用が足ります。スーパーでは、バスソルトひと箱とか、いちご一パックとか、品物をひとつ買うだけでも大冒険を味わえます。何か未体験のものを試してみましょう。あなたたちがノルウェー人ならギリシャふうの葡萄葉の詰め物を、インドネシア人ならスウェーデンふうミートボールを、といった具合に。あるいは、スージーとともに、豆の缶詰の銘柄が何種類あるか数えてもいいでしょう。ふたりで共通の体験ができれば、対象がなんであろうとかまいません。

家に帰ったら、経験したことや目にしたものについていろいろ話しましょう。スージーはほとんど思い出せないかもしれませんが、それでいいのです。大切なのは、あなたがスージーと楽しく過ごし、彼女の選んだものに満足したという事実が、きちんと相手に伝わることですから。

また、新しいバスソルトのおかげで、スージーは前より入浴を楽しめるかもしれません。こんなふうに言ってみましょう。「けさはスーパーで楽しかったわね。新しいバスソルトを試してみるのも、面白そうよ。りんごの香りに包まれて入浴するなんて、すてきじゃないの。ねえ、いますぐ試してみない?」

68. レストラン

おねえさんにとって、外食は特別なイベントです。一心にメニューを見つめますが、それが逆さまになっていることも多々あります。メニューは読むべきものだと覚えてはいても、もはや読みかたがはっきりわからないのです。好きなようにメニューを持たせておいて、自分のメニューを読んで聞かせましょう。それから、おねえさんの好きな料理を指します。「ほら、おねえさんの好きな料理があるじゃない。きょうはこれにする? それとも新しい料理を試してみる?」

答がどうあれ、わりあい簡単に食べられるものを注文し、料理が運ばれてきたら、にっこり笑って差し出します。「さあ、注文の品よ。すごくおいしそうね」一度に出される料理の種類や食器の数が多すぎると、おねえさんは混乱するかもしれません。

ウェイターに頼んで皿を一枚余分にもらい、フォークで食べるものと、指でつまんで食べるものとを分けて、一度にひと皿ずつ渡します。食器も、料理に合わせて、フォークかスプーンどちらかひとつを渡します。おねえさんの尊厳を守りたければ、状況に適した食器をできるだけ長く使いつづけることが大切です。ナイフをうまく安全に扱えないときは、切り分ける必要のないものを選ぶか、あらかじめ切り分けておきましょう。


おねえさんはサンドイッチを食べたいのに、両手をどう使えばいいのか忘れてしまいました。この場合、あなたがサンドイッチを切り分けるか、ウェイターに頼んで中身だけ皿にあけてもらってフォークで食べられるようにします。

じゅうぶん時間をかけて、おねえさんにペースを合わせて昼食を取ってください。カフェテリアやビュッフェレストランなど、ウェイターの収入がチップや売上に左右されない店の常連になるといいでしょう。そこなら、長々といつまでも食べていられます。けれども、ときにはレストランで食事をして、優雅で特別な気分を味わうことも必要です。レストランに行くときは、混雑する前後の空いた時間を選びましょう。

車で帰宅する道すがら、いかに楽しい食事だったか伝えて、一緒に次回の計画を練ります。ふたりとも食べた料理についてあれこれ話すのもいいでしょう。あるいは、料理の材料を比べたり、感想を言いあったり。食事についてこと細かに話せば、現在の記憶を保つのに役立ちます。そのさい必ず、一緒に過ごせてとても楽しかったことを繰り返し伝えましょう。レストランでの経験は話題としてうってつけです。食べ物の話ならだれにでもできるし、たいていは、確固たる意見と好ききらいを持っているからです。

69. 運転

車の運転をあきらめるのは、おそらく、高齢者がいずれ経験するなかで最もショックなできごとでしょう。初期のアルツハイマーの場合、よく知っている道なら運転もできますが、認知症が進めば、自分やほかの通行車の安全のためにやめざるをえません。そのときは、身を切られるような思いをするはずです。

おとうさんは以前、車に住んでいるとすら言われる状況でした。いまもまだ、昔ほどではないにしろ、運転を続けています。たいていは問題ないのですが、ときどき曲がり角を見過ごしたり、標識がわからなくなったりしています。つい最近も、あなたを乗せて高速道路を走っているとき、出口を見過ごしてしまいました。あなたがとっさに「おとうさん、さっきのが出口だよ! 過ぎちゃったじゃないか!」と叫ぶと、車を停めて向きを変え、なんと逆走しはじめました。周囲の車の流れにも、まったくおかまいなしに。

やっとの思いで家に着いたとき、どんなにほっと胸をなでおろしたことか。あなたは膝をがくがくさせて玄関の階段をのぼりながら、思い浮かぶありとあらゆる神様に感謝を捧げ、おとうさんに運転させるのはこれが最後だと心に決めます。

けれど、言うは易く、行なうは難し! おとうさんは車を熱愛しています。車は自慢と喜びの種であり、自由の象徴でもあるのです。運転できなくなったら、胸が張り裂けるでしょう。以前、この問題について話したとき、ふだんは穏やかなおとうさんが烈火のごとく怒って、何を言っても聞く耳を持ちませんでした。それでも、高速道路の一件のあと、あなたは運転を息子に任せるべき理由をあれこれ持ち出しては、説得を試みました。鍵を隠したり、さらにはバッテリーの線をはずしたりさえして。

こうすれば運転はできませんが、おとうさんはますます車に執着し、故障したとあなたに言われても疑うようになります。

そして、腹立たしげに言います。「おまえは車のことなど何もわかっとらん、ディーラーのメカニックも自分の仕事を何もわかっとらん」

おとうさんの親友が事態の打開のために来てくれました。あなたが高速道路の一件を説明していると、おとうさんはそんなことをやった覚えはないと強く言い張ります。それについては反論してもむだなので、あなたは深く息を吸って、こう言います。「おとうさんはすごく運転が上手だけど、標識をちゃんと読めないから心配なんだ。おとうさんが大切だから、事故を起こしてほしくないんだよ」

こんなふうになだめたうえで、親友が、少しずつ運転を減らすことを提案します。おとうさんはしぶしぶと、毎週ふたりであなたのおばさんに会いにいくときだけ運転し、そのときは自分の庭みたいによく〝知って〟いる脇道を通ることを承知します。

あなたのほうも、高速道路の一件のように大げさに騒ぎ立てないと約束し、以降は、おせっかいにならない程度に次の曲がり角を教えるようにします。たとえば、こんなふうに。「次の交差点で曲がろう。そうすれば、正しい道にもどれるから」

おとうさんには、心穏やかに、運転に集中してもらう必要があります。ですから、曲がり角を見過ごしても、あからさまに指摘してはいけません。怒らせてしまい、さらに運転が乱れるのが落ちだからです。

いよいよとなったら、医師に頼んで、車の鍵を手放すよう〝治療上の指示〟を出してもらいましょう。それがむずかしいようなら、地元のアルツハイマー協会に相談してください。また、おとうさんが孤独感を味わわないためにも、同じく運転をあきらめた人たちと話をすることを勧めましょう。運転の問題については、地元の高齢者センターも有効なアドバイスをくれるはずです。

70. ペット

動物に癒し効果があることは、かなり前から認識されています。場合によっては、犬や猫をなでるだけで、ストレスや血圧が低下します。進歩的なナーシングホームでは、居住者への癒し効果を期待して、毛皮で覆われた〝セラピスト〟を雇っているくらいです。人気のペットは、犬、猫、うさぎです。

ある日、デイケアセンターにおばあさんを迎えに行ったところ、早めに着いてしまいました。そして目にしたのは、地元の動物保護施設のボランティアが連れてきた小犬に、すっかり夢中になっているおばあさんでした。にこやかにほほえんで犬を優しくなでる姿は、見るからに心穏やかで楽しそうです。あなたは以前も、犬か猫を引き取ることを考えてみましたが、おばあさんに精神的な負担がかかるのではないかと不安でした。

いま、楽しそうな姿を見て、あなたはペットを飼うことをもう一度検討しはじめます。

地元の保護施設に連絡して、おばあさんが飼えるような、かわいくておとなしい犬か猫が見つかったら知らせてほしいと頼みましょう。子犬や子猫は見た目は愛らしいですが、元気すぎて扱いが大変なので、成長したペットのほうが望ましいでしょう。

大家さんがペットを許可してくれない場合は、水槽を設置するのもひとつの方法です。たいていの人は、魚の泳ぐさまを見つめるだけで、癒され、気持ちが穏やかになります。

教育玩具として売られている擬似水槽は、いかにも本物らしく見えるので、おばあさんは魚にをやろうとするかもしれません。

71. 電話

昔はこれなしにどうやって暮らしていたのかと不思議になるくらい、電話はすばらしい道具です。電話による外の世界とのつながりは、なかなか断てるものではありません。ところが、短期記憶が失われた人は、いま電話したばかりなのを忘れて、数分後に同じ人にかけなおすことがあります。そのため、家族や友人に大きな緊張をもたらします。こうした電話をかけるのが混乱やストレスの徴候である場合は、とくにそうです。

実家を離れて以来、あなたはおかあさんとの連絡を絶やさないよう、電話でしょっちゅう話をしています。日曜日はいつも電話をしてから教会に出かけるのですが、最近、あなたの声を電話で聞くと、おかあさんが動揺することが多くなりました。

ある夜、仕事から帰ると、留守番電話にメッセージが一七件はいっていました。うち一五件は、おかあさんからです。とんでもない事態を予想して、あなたは恐る恐るメッセージを再生しはじめますが、どうやらおかあさんは、ただ留守番電話の応答に怯えて、混乱しているだけのようです。とはいえ、何年ものあいだ、留守番電話をちゃんと使いこなしていたはずなのに……。

いくつかのメッセージには、泣き声がはいっています。当然ながら、あなたは心配のあまり、すぐさま電話をかけなおしました。おかあさんはあなたの声を聞いて喜びます。けれども、一五件の電話について触れると、驚いて否定します。明らかに、電話をかけたことはまったく覚えていないのです。

あなたは実家でときどき過ごすようにして、おかあさんにひとり暮らしをさせてもだいじょうぶか確認します。どうやら、問題のある行動はしつこい電話だけのようです。

おかあさんはいま、一日に何回も電話をかけてきますが、少し前にかけたことはいつも忘れています。それを指摘したところで、よけい動揺と不安を生じるだけだし、ひいては、もっとひんぱんに電話をかけずにいられなくなるでしょう。

こんな場合に役立ちそうな案がひとつありますが、実行するには細やかな神経が求められます。まず、ふたつめの電話回線を申しこんで、ほかの人にはそちらにかけてもらいます。そして、いままでの回線は、番号が記憶されていまさら変えられないでしょうから、おかあさん専用として使うのです。こちらには専用の応答メッセージを吹きこんでください。「もしもし、おかあさん。(あなたの名前)です。これは留守番電話なので、メッセージを残してください。電話をくれて、すごく嬉しいな。おかあさんの話を聞くのはいつも楽しいから。きょう一日が、すばらしい一日になりますように。いまはちょっと手が離せないけど、できるだけ早くかけなおすね」


おかあさんが何十回も長距離電話をかけたせいで、今月の電話代がかなりかさみました。かけた先のひとつは、あなたのおねえさんの留守番電話です。おねえさんも気の毒に!

それ以外にどこへ電話をかけているのか、だれにもわかりません。

おかあさんは昔から電話でおしゃべりするのが大好きでした。けれども、最近は混乱がひどくなって、ていねいに電話に出たかと思うと、すぐさま、がしゃんと切ったりします。

おかあさんが電話に手を伸ばすのを見かけたら、やさしくさえぎり、ほがらかな声で、さっきは電話で楽しく話していたね、とかなんとか話しかけましょう(それがきのうのことであっても、かまいません)。そして、注意をそらすのに効果的な話題を持ち出します。「おかあさん、キッチンに行って、けさ届いたファッションカタログを見よう。新しいウォーキングシューズが見つかるかもしれないよ」

注意をそらそうとしてもうまくいかない場合、キャビネットや引き出しに電話を隠すなど、強硬策を検討しましょう。その策略を見破られたら、使用時以外はプラグを抜いておき、おかあさんには故障だと説明します。説得力を増すために、電話会社にちょっと腹を立てているふりをしましょう。「いまは昔とちがって、どこも信用ならないわね」などと言って。

家族や友人には、状況を知らせておきましょう。そうすれば、おかあさんがいきなり電話を切ってもかけなおしてもらえますし、ボイスメールにメッセージを残してもらうこともできます。

72. テレビ

バーサおばさんは、長年メロドラマを熱心に観ていましたが、ある日の午後、ひどく取り乱して泣きそうになりました。あなたの知るかぎりでは、ストーリー展開は、前回までとなんら変わらない、ドラマチックな事件や試練の連続です。そこでテレビの音量を落として、「どうしたの、バーサおばさん? なぜ、そんなに取り乱しているの?」と訊ねました。おばさんが「あの人、赤ちゃんを亡くしたの、赤ちゃんを亡くしたのよ。ああ、なんてこと」と答えるので、あなたはこう言います。「バーサおばさん、あの人は女優よ。実際には、赤ちゃんを亡くしてないの。ただの作りごと」

おばさんはそのことばには注意を払わず、ただこう繰り返すばかり。「でも、赤ちゃんを亡くしたのよ、亡くしたの」いまは、なだめるすべはなさそうです。あなたはティッシュを取り出し、涙をふいてあげました。そのときふと、おばさんを落ち着かせるには、相手の現実にはいりこまなくてはならないことに気づきます。そこで、こう言います。「赤ちゃんのことはほんとうに気の毒だったわね。お悔やみのカードを書きましょうよ、ね? 一緒に文房具屋さんに行って、きれいなカードを選びましょう。でも、その前にグレープジュースでもいかが?」

いまのおばさんには現実と作り話とを見分けるのがむずかしいことに、あなたは気づきます。これからは、観る番組を監視して、テーマに問題はないか注意する必要があります。また、生々しい映像があるので、夜のニュースは避けたほうがいいでしょう。

おばさんの目を通してテレビを観ると、現代のユーモアの多くが、卑わいだったり悪意を帯びていたりすることがわかりました。また、アクションドラマには、正視できないような暴力描写がしょっちゅう出てきます。バーサおばさんがテレビを観るのを楽しんでいるなら、興味のありそうなビデオを借りるか買うかしましょう。その場合は、あらかじめ、気持ちの沈む内容でないことを確認しておきます。

73. ビデオ

おじいさんのそばにずっといるわけにはいかないので、ビデオ(またはDVD)をとても重宝しています。おじいさんはテレビを観るのが大好きですが、最近、テレビドラマの作り話と現実とを見分けられなくなりました。この点、ビデオなら、内容に目を光らせて無用な悲しみを避けることができます。

建築からシマウマにいたるまで、ビデオではおよそあらゆるテーマが扱われています。また、ハンフリー・ボガートの映画やシド・シーザーのテレビショーといった、さまざまな古い作品も観られます。地元の図書館やビデオ店を調べてみましょう。お気に入りのテレビ番組をビデオに録画しておいて、おじいさんの都合のよいときに再生するのもひとつの方法です。

若いころ映画ファンだったのなら、名作映画集を買うのもいいかもしれません。インターネットで名画専門のウェブサイトを探しましょう。費用はけっこうかかりますが、昔好きだった作品を見ておじいさんが楽しく過ごせるなら、それだけの価値はあります。ひょっとして、もはやストーリーをちゃんと追えないかもしれません。小さな画面ではなおさらそうでしょうが、たぶん、筋立てを知っている映画が多いはずです。それに、お気に入りの俳優を眺めるだけで、じゅうぶん楽しめます。大きなビデオレンタル店ではたいてい、名画全集をずらりそろえていますし、店頭になくても快く注文してくれるでしょう。

以前、おじいさんの家では、土曜日にはきまって、おばあさんたち女性陣が台所か庭にたむろし、おじいさんたち男性陣は奥の小部屋でテレビに貼りついていたものです。おじいさんはいまもアメフト観戦を楽しんでいますが、試合にのめりこんで、怒りを一日じゅう引きずりがちになりました。どうやら、認知症のせいで、目にした事実をゆがめて認識しているようです。なかなか試合の展開についていけず、コマーシャルと試合を混同することさえあります。

あなたはしばらく前から一緒に観戦して、おおまかな解説をしていました。けれども、アメフトのファンではないため、無知な発言でおじいさんをよけい混乱させてしまいます。それに、正直な話、あなたにはやりたいことがほかにたくさんあるのです。ふたりとも満足できる方法を探していると、ビデオが解決策を与えてくれました。プロのフットボールリーグ(NFL)のハイライト集と珍プレー集のビデオを手に入れたのです。ビデオなら繰り返し観られるし、展開がわかっているので、おじいさんもさほど興奮しないはずです。

74. 動物園

あなたとおじさんが動物好きで、しかも幸運なことに近所に動物園があるなら、外出先のリストに動物園を加えてください。弁当を詰めて、混雑する前の早い時間に出かけましょう。ベンチを探すか、折り畳み椅子を二脚持っていきます。そして、ふたりとも気に入った展示動物の前に腰かけてゆっくり弁当を食べながら、一緒に動物を観察します。類人猿、猿、あらいぐまなどの社会的な動物は、とくに愛嬌があります。

考えたことを声に出して、おじさんが観察結果を表現するのを助けましょう。「ぼくの見てるのは、あっちの端っこのだよ。あの雌はもうすぐ母親になるみたいだね。それとも、太ってるだけなのかな。どう思う?」答がなければ、おじさんの視線を追って、一緒に観察しはじめます。「あっちの角にいる大きな雄を見てるんだね?すごく立派な顔つきだね。それに、なんて身が軽いんだろう。ぶらさがって枝のあいだを抜けていくよ」

たいていの人は、動物園を駆け足で見てまわり、個々の動物をじっくり眺めようとしません。けれども、ひとつの動物群だけに絞って、残りはほかの日に取っておくのも楽しいものです。こうすれば、おじさんの体によけいな負担や過度の刺激を与えずにすみます。また、あとでその日の経験について話すときも、混乱がずっと減ります。「きょうは動物園ですごく楽しかったね。あのいたずらな小猿が忘れられないよ。何度も大きな雄から人参をかすめ取ってるのに、相手はぜんぜん気づかないんだから。また近いうちに動物園に行って、あの猿たちを見たいね?」

75. ワードゲーム

おとうさんの言語能力は以前ほど冴えませんが、あなたが少し刺激を与えればある程度のことは思い出せます。ことわざ、決まり文句、格言は、個人的な経験よりも長く記憶にとどまる傾向があります。一緒に楽しむというスタンスでワードゲームにのぞめば、よい刺激になるでしょう。

競いあったり、相手を追いつめたりするのは厳禁です。互いが楽しんでいるあいだだけ、ゲームを続けましょう。そのさい、何よりも大切な要素は、社会性を育むことです。ゲームの多くは集団で行なうといっそう効果的なので、共同ケアグループの活動に採り入れるか、家族の団らん中に試してみましょう。


空想ゲーム 突然のどしゃぶりで、午後の予定が潰れてしまいました。ふたりともがっかりしたので、あなたは代わりに、空想の旅を試してみます。おじいさんに、こんなふうに言いましょう。「おやまあ。あの雨を見て、おじいちゃん。ひどいどしゃぶりよ、あんなに楽しい計画を立てていたのに。ばら園に行くのは、晴れの日までおあずけね。でも、いいことを思いついた。パリまでひとっ飛びしてマキシムでディナーにしない?」

おじいさんは不思議そうな顔をしますが、あなたはためらわずにことばを続けます。「夜はカプリ島の、会員制の隠れ宿に泊まりましょう。それから、カイロに飛んで朝食を取って、昼食まではピラミッド観光。そのあとはピクニックがいいかしら、それともケニアに移動して狩りをする?」

なおも返事がなければ、いっそう茶目っ気を出して、話を作ります。「それより、ピラミッドのてっぺんによじ登って、ロケットで火星に行きましょうか。前から火星の赤い空を見てみたかったの。おじいちゃんはどう? 火星のレストランじゃ、どんな料理が出てくるかしら?」

ここでようやく、空想物語の面白さに気づいておじいさんがにっこりしたので、あなたはさらにことばを続けます。「朝いちばんの飛行機で出発して、最後はオーストラリアのシドニーでオペラ鑑賞というのもいいわね」

おじいさんがむっつりと答えます。「オペラはきらいだ」

「いいわ、じゃあ、代わりに日本の京都に行きましょうよ。おじいちゃんは日本食が好きだから、日本庭園もきっと気に入るわ」

この空想ゲームはいつまで続けてもかまいません。次にどこへ行きたいか訊ね、その場所について詳しい話をこしらえます。慣れないうちは、あらかじめ空想物語を作っておいて、相手に提案や訂正を求めるといいでしょう。


名前をつける 名前をつける対象は、車、州、大統領、テレビ番組、動物、国、職業、祝日など、いくらでもあります。あるいは野菜、果物、アイスクリーム、デザート、サンドイッチ、ドリンクなど、食べ物系で攻めるとか。また、ピクニックやパーティーや月旅行用のメニューを作るのもいいでしょう。食べ物や飲み物の風変わりな組み合わせを考え出すのです。たとえば、いちごピザ、ハンバーガー・プディング、アスパラガスのチョコシロップ添えなど。


決まり文句 これはふたりだけで楽しめるゲームです。どこまで続けられるか試してみましょう。かわりばんこに決まり文句や常套句だけを言いあってください。たとえば、

「ごきげんいかが?」

「おかげさまで。あなたはいかが?」

「つつがなく」

「それは何より」

「お心づかい、痛み入ります」

「では、お変わりなくお過ごしで?」

「上を見ればきりがないですから」

「あしたは、あしたの風が吹きますよ」

「棚ぼたは期待できそうもありませんね」

「悪銭、身につかず、と言うじゃないですか」

といった具合に。


お話作り このゲームは、グループでもふたりだけでも遊べます。思いつくままに、どんどん話をつなげていきましょう。最終的にばかばかしい話ができあがるのが、このゲームの醍醐味です。終了後は、あとで一緒に楽しめるよう、話を書きとめておきましょう。

たとえば、こんなふうに出だしを持っていきます。「むかしむかし、あるところに……えーと」

「わに」と、おかあさんが言います。

「わにがいました。住んでいるところは……」

「ブルックリン橋」

「わには、いつも気晴らしに、何をしていたでしょう?」

「読書」

といった具合です。


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読み PART4にちじょうせいかつのちえ
作成者 openknow84
作成日時 2008年10月14日 13:16:26
最終更新者 openknow84
最終更新日時 2008年10月14日 13:16:26
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